アカデミーの廊下で、ニコルがアスランとなにやら話している。ニコルはときおり大きな仕草でアスランに答えている。
自分の部屋に戻る途中でその様子に気づいたディアッカだったが、特別に気に留めることもせず、廊下の角を曲がろうとしたら、ニコルから声をかけられた。
「ディアッカ!」
呼び止められた方は、さして興味もない様子で振り返る。
「何だよ」
ニコニコと笑顔を振りまいている年下の少年は、こちらに走り寄りながらいつも以上に嬉しそうにしている。それを不思議に思っているディアッカにニコルは切り出した。
「ディアッカ、明後日って予定あります?」
今日は12月29日なので明後日というのは、すなわち今年最後の日ということになる。ちなみにアカデミーは明日から休暇に入る。
取り立てて用事もなかったのを思い出し、「別に」と答えると、目の前の茶色の瞳は輝きを増した。
「よかった!突然ですけど、コンサート見に行きませんか?」
本当に突然の内容にディアッカは戸惑った。
「コンサート・・・ってお前の?」
以前にも誘われたことがあるので、聞いてみる。それにしたって突然すぎるが。
「いえ、ラクス・クライン嬢のです。僕もチケット取ってたんですけど、アスランが誘ってくれて。その席が3列目の中央なんです!
だから、僕の取った分が余っちゃうんですよ」
どうやら、アスランは婚約者から渡されたチケットの価値もろくにわからずにニコルを誘ったらしい。誘われたニコルはきっと飛びついたのだろう。ニコルが取り出したチケットには大きなホールの前から12列目が記載されていて、それほど悪い席というわけでもなかった。
「でもなぁ」
ニコルやアスランならともかく、ディアッカはその手のコンサートには興味はないのだ。誘う相手を間違っていると思っていると、ニコルは意味深にディアッカの顔に近づいてささやいた。
「イザークとどうですか? 彼よくラクス・クラインの曲聴いてるでしょう」
さりげなく自分の盲点を突いてきた少年を見下ろしながら、ディアッカは一瞬で誘ったときの勝率を計算する。なんとか5割を超えそうなので、そのチケットを受け取りながら、ニコルに言った。
「なんで直接イザーク誘わないわけ?」
すると無邪気な少年は、顔色も変えずに言い切った。
「だって、イザークに渡してもたいした貸しにはならないでしょう」
そういわれてディアッカは自分がこの少年に一瞬にして借りを作ったことを知った。
「それじゃ」
言いながら、ディアッカの元をニコルは去っていく。
その後姿を見送りながら、なにがなんでもイザークを誘って連れて行くとディアッカは硬く決心したのだった。
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