食堂でいつもどおりイザークの向かいに座ったディアッカは今日のメニューを見て、軽いため息をついた。
なんてことのない野菜炒め。
けれど、目の前のイザークの顔は渋い。ディアッカ以外は気がつかないだろうくらいの微妙な差ではあるけれど。ディアッカは甘やかすのはいけないな、と黙って気づかないフリをする。
隣にやってきたニコルとアスランとラスティ。そいつらとたわいない話をしながら、ディアッカはイザークの手元を確認した。
黙って食事をするイザーク。マナーにうるさい同僚は、食事時には必要以上の会話はしない。それはいつものことだったけれど、その手元はいつもと違ってぎこちない。
そっと避けた野菜。緑色のそれはそっと皿の隅に寄せられている。
やっぱり、残してる。
ディアッカはちらりとイザークを見遣る。するとその青い瞳と視線があった。訴えかけるような熱い視線。それが求愛じゃないのが残念だな、と思いながら、ディアッカは仕方ないな、とイザークの皿に救済の手を伸ばす。
その瞬間の嬉しそうな顔。そういう顔をキスしたときにでもしてくれよ、と思いつつ、ディアッカは皿の隅にのったそれを自分のさらに落とした。
「あれ、イザーク、ピーマン嫌いなんですか?」
鋭いニコルは見逃してはくれなかった。内心で舌を打ちつつディアッカはそ知らぬ顔で否定する。
「違うって。オレが野菜炒めのピーマン好きだからいつもイザークがくれるんだ」
何もいえないイザークの先に、ディアッカはキレイな嘘を並べ立てる。
「そうなんですか。じゃぁボクのもあげますよ。実はあまり得意じゃないんです」
そう笑うニコルは、ディアッカの返事も聞かず、その皿に緑の野菜をどばっと落としてよこす。
「あぁ、サンキュ・・・」
一見すると無邪気な笑顔にディアッカは弱味を握られたことを知る。イザークのピーマン嫌いを見逃す代わりに自分の分も食べてくれ、とこの先ずっと言われそうだと悟った。
こいつはやっかいだな、と思いつつ、あくまでもディアッカの顔は笑顔だ。
まーったく。
イザークのピーマン嫌いを知られないように、さりげなくフォローしたことは今まで何度あったことか。そのたびに次は食べる、と言っているが一向に食べる気配はない。それどころか、1.5センチ以上のものは食べられないとまで言い切る始末だ。理由はそれ以上大きいとかまないと呑み込めないからだとか。噛むと口中に味と匂いが広まって耐えられないというのだが。
どうにかならないものかと思う。好き嫌いをどうこういうつもりはないが、嫌いなものを人に知られたくないというそのプライドの高さをどうにかしてほしい。寮生活となれば、人前での食事はつき物で、そんな生活をしている限り、好き嫌いを隠し通すなど無理だというのに。
さりげなくイザークの様子を伺うと、黙々と残りの食事に手をつけて早々に席を立とうとしていた。
「ごちそうさま」
礼儀正しく言って手を合わせる。
「早いですね、イザーク」
見上げるニコルを振り返らずにイザークは食堂の出口に向かう。
はぁぁ、と大きなため息を心の中だけでついて、ディアッカは山盛りになったピーマンを次々と口に運んだ。
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