「おい、次に食べるって言ったのは誰だよ?」
 部屋に戻るなり、ベッドの上に膝を抱えて座り込んでいるイザークに声をかける。
「食べたぞ!」
 視線は上げずに答える声は強がって入るけど、気まずい気持ちに溢れている。
「じゃあ何で、オレの皿に山盛りになるんだよ?」
「あれはニコルの分もあっただろ!」
 しっかりと責任転嫁の先を見つけて押し付けるあたりはさすがだとは思うけれど。これに関しては褒められたことじゃない。
「たしかにね。でもイザークの分だけでも相当あったけど?」
 ベッドの淵に腰掛けて覗き込む。ぷい、と横を向いて視線から逃げながら、イザークは頑なだ。
「ほんとに、食べたんだ! 小さいのがあったから。だけど、苦いのが気持ち悪くてそれ以上食べられなかった。本当だぞ!!」
 ぎゅっと手を握って訴えるイザークは、きっと本当に挑戦したのだろう、嫌いな野菜を食べることに。約束したことは可能な限りは守るやつだから。けれど、それが自分でもなかなか実現できないことに悔しさと恥ずかしさがあるから、早々に食堂を引き上げてしまったのだと理解する。
「オレは好き嫌いないからよくわかんないけど、そんなに嫌なもん?」
「嫌だ! あの苦くて青臭いのが口の中に広がると、もう手の平に汗がでてくるんだ!呑み込もうと思っても喉が受け付けなくて、吐きそうになる!」
 こりゃ重症だな。
 ピーマンなんてお子様の嫌いな野菜ナンバーワン、でかつ、大人になって食べられた野菜の上位にランキングするものだと思うのだが。ということはイザークの味覚は未だにお子様なんだろうか。確かに振る舞いはお子様そのものだけれど。
 そう思いついて笑いそうになったディアッカにイザークは自分の言葉が笑われたと勘違いしてムッとして睨みつける。
「でも、アスランには好き嫌いはないらしいけどな」
 アスラン、の名前に反応しながらも、悔しそうにイザークは唇を噛んだ。
「そのうち、食べられるようになってやる! だから絶対誰にも言うなよ!」 
 この後の及んでまでオレに釘をさすことを忘れないなんて。そんなに知られたくないものなんだろうか。
「ああ、わかったよ、言わないって。その代わり、お礼を要求したいんですけどね」
「礼?」
 むむむ、と考えていたイザークは仕方ないというようにディアッカを向いた。
「何だ、早く言え」
 そう言われたディアッカは言うより早くイザークの腕を引いて、バランスを失ったその体を抱きとめる。そしてそのまま口付けた。
 唇を重ねるキスに、イザークは目を閉じる。深い熱を求めてディアッカが唇を割って舌を深く絡ませた瞬間だった。
「うっ!」
 言うなりイザークがディアッカを突き飛ばす。
「・・・何なんだよ、いきなり・・・」
 ベッドに倒れ込んだ体を起こしながら、ディアッカはイザークを見る。その顔は文字通り苦虫を噛み潰したような酷い顔だった。
「お前、ピーマンの味・・・!」
 イザークのセリフは半端ではあるけれど、言いたいことは充分伝わった。
「あぁ? そんなことに反応したのかよ」
 ディアッカは呆れ顔で軽いため息をつく。歯磨きこそしてないとはいえ食後のコーヒーだって飲んだのだから、ずいぶん薄まっているはずなのに。
「ま、せいぜいがんばってくれよ」
 こりゃ克服への道のりは長そうだ、とあきれつつ、プイと横を向いていじけているイザークの頬にキスをすると、その髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。








END




2005/6/17




あとがき

なんとなく書いた話。
イザークって味覚がお子様っぽいなぁと思って。
私は好き嫌いがないから嫌いなものへの反応とかわからないのですが、
ピーマン嫌いな人、これで合ってますか?(笑)
そしてどこまでも世話焼きなディア・・・。
甘やかしすぎでしょー・・・(笑)