little memories

 アプリリウス市の閑静な住宅街。
 その一軒の屋敷に次々とエレカが乗り付けられる。降りる人間はみな華やかな衣装を身に纏い、楽しげに会話を交わしながらその家の玄関へと歩いていく。
「まぁ、いらっしゃい。レノア、貴女まで来てくれるなんて」
 その家の主、エザリア・ジュールが新たに到着した夫婦を出迎えた。
「久しぶりね、エザリア。貴方もお元気そうね」
「えぇ、おかげさまで。そちらがアスランね」
 レノア、と呼ばれた紺色の髪の女性に抱き上げられている子供にエザリアは視線を向けた。
「子供連れで構わないというから、お言葉に甘えて連れてきたよ。君のところのイザークと知り合うにもいい機会だと思ってね」
 父親であるパトリック・ザラはそう言って息子を覗き込む。
「たしか、うちのイザークよりも一つ下だったわよね?」
「そうね。でもうちの子は甘えん坊で人見知りが激しいのよ。私が忙しいから母親友達というのも少なくて、同じ年頃の友達がいないからかしらね」
 母親の腕の中で、袖をぐっと掴んで大きなグリーンの目でアスランは母親を見上げている。
「お名前は? 言えるかしら?」
 問いかけられてアスランはじっとエザリアを見る。
「あしゅらん」
 自分の名前をまだ完全には言えない様子にエザリアは頭を撫でて褒めてやる。
「まぁ、偉いわね。友達がいないのはうちのイザークも同じようなものよ。それならちょうどいいわ。プラントは私たちの次の世代に掛かっているんだから、早くから優秀なもの同士が親交を深めるのは有意義なことよ」
 言うとエザリアは夫妻を促して歩く。
「あっちにおチビちゃんたちの部屋を用意してあるの。親が口出しするよりも本人同士で仲良くさせた方がいいと思って」
 今日はエザリアが企画したパーティがあるのだ。現職の評議会議員、次期選挙に立候補を予定している者、そういった面子を集めて、けれどもあくまでも私的に楽しむためのパーティという企画だった。その招待状には子供のいる者は子連れでも構わないという一文も添えられていた。
「仲良くって、大丈夫かしら・・・」
 レノアが心配そうにするとエザリアが笑う。
「子供同士だもの、大丈夫よ。それより早くアスランを離しなさいな。それじゃあまるで貴女がアスランから離れられないみたいよ」
 クスクスと笑ってエザリアが言うと、ようやくレノアは抱いていたアスランを床に下ろした。そして一つのドアが開けられる。


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