サクサク、サクサク。
広い公園に植えられた数多くの落葉樹から落ちた葉が、時折吹く風に寄せられて集まっているその歩道をまるで楽しむかのように軽い足取りで歩く。
「楽しそうだね」
そう話しかけられた少年は一緒にいた人間のことを忘れていたかのように慌てて振り返った。
「そうか?」
取り繕うかのようにつま先で枯葉を蹴り上げながら、イザークは吹き付ける風に寒そうに背を丸めた。
「うん。寒がりなのに歩くの嫌がらないし」
そう笑うとディアッカもイザークと同じように枯葉の上を踏みしめて歩いてみる。赤や黄色、濃い茶色のそれは白っぽい歩道の石の上で鮮やかに風に舞っていた。
「今日くらいなら平気だ」
強がって言うイザークだけれど、さっきからその手がポケットに入れられたままなのにディアッカはとっくに気づいていた。
久しぶりの休日にイザークとディアッカは買い物に出かけた。家でゆっくり本を読みたがった寒がりを無理やりに引っ張り出してあれこれと店を連れし、少し休もうかと近くの公園にやってきたのだ。
イザークは素材がいいくせに着るものにおよそ無頓着だった。制服以外の洋服は母親がそろえた物を何の疑問も持たずに着ているのだが、ディアッカからすると年頃の少年が着るにはフォーマルすぎるものが多くて歳相応に感じられない。もともと育ちがいいのでそれなりに着こなしてしまうのが余計に問題だった。そこでディアッカはイザークと一緒にいるようになってからときどきこうしてイザークを買い物に連れだすようになったのだ。ディアッカが初めてイザークに見立てたのはジーンズだった。驚くというかあきれるというかそれまでイザークはジーンズなんて履いたことがなかったのだ。改めて浮世離れしたお坊ちゃまぶりを思い知らされながら、ディアッカはイザークのために色落ちしたジーンズとカラーデニムを数本選び出した。イザークが試着をしていると女性の店員が覗きに来るほどそれは似合っていた。
それ以降、イザークはディアッカと出かけるときは必ずジーンズを履くようになった。今日も細身のストレートジーンズに紺色のタートルネックのセーター、そしてチャコールグレーのジャケットを羽織っている。カジュアルな格好をしていてもどうしても醸し出される育ちのよさは隠しきれなくて行く先々で人目を引くのだった。
「ねぇ、もう一箇所寄らない?」
たくさんの紙袋を抱えながら、イザークのあとについて歩くディアッカはそう言った。
「まだ買い物するのか?」
半ばうんざりした声で立ち止まりながらイザークは聞き返す。
「うん、ひとつ買い忘れたもの思い出したんだ」
仕方ないな、とイザークはディアッカを促す。そして二人は一軒の店に立ち寄った。
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