「これ、どう?」
 店の中を見回していたイザークにディアッカが声をかけた。イザークは自分で服を選ぶなんてできないからいつも品定めをするのはディアッカの役目だ。シャツが欲しいと思っていても自分じゃわからないからとディアッカに探してもらう。そしてディアッカがいいと思った何点かのなかから試着をするというのがお決まりだった。
 振り向いたイザークの手にあったのは服ではなかった。
「マフラー?」
 ディアッカがもっているのは綺麗な淡いパステルブルーのマフラーだった。
「イザーク、寒そうだったから」
 ディアッカの選んだ上質な素材のそれは薄くて軽かった。手渡されたイザークは一通り見てから首に巻いてみる。
「明るすぎないか?」
 鏡に映った自分を見ながら隣に立つディアッカに確かめる。
「そうでもないよ。小物は暗い色ばかりだからそれくらい明るい色の方がいいんだよ」
 そういわれてイザークはそんなものかと思う。首をかしげてもう一度鏡を眺めながら、イザークはなんとなく頷く。
「お前がそういうなら別にいい」
 相変わらずの興味なさそうな様子に苦笑しながらディアッカはそれを店員に渡すと言った。
「すぐ使いたいから、タグとってもらえます?」
 

 ありがとうございましたー、という店員の声を後にして、二人は店を後にした。イザークの襟元には買ったばかりのマフラーが巻かれている。
「どう?」
 隣を歩きながらディアッカはイザークに聞いた。
「あぁ、あったかいな」
 そう言ったイザークはふと気がついてディアッカを向いた。
「どうせだったら一緒に手袋も買えばよかったな」
 外に出たとたん、冷たい風が吹き付けてすぐに指先は冷たくなってしまったのだ。ごそごそとジャケットのポケットに手を潜り込ませながら言うイザークにディアッカは笑ってみせた。
「手袋なんていらないよ」
 言うと幾つもの紙袋を片手に持ち直し、マフラーを巻いた少年に近づくとその手をポケットの中から引き出した。そしてその手を自分のものに重ねて握る。
「こーすればあったかいでしょ?」
 にっこりと笑うディアッカにイザークは驚いた顔をして、その頬は赤く染まった。ディアッカはイザークよりもずっと体温が高い。確かに握られた手は暖かく、自分の手のひらを暖めるように熱が伝わってくる。
「お、男同士だぞっ」
 慌てて抗議するイザークだったけれど、手を引き離すわけでも、押し返すわけでもなかった。
「べつに、気にしないし」
 ディアッカは口にしなかったが、鮮やかなパステルブルーのマフラーを巻いているイザークはすっかり少年ではなくなってしまっていた。もともと中性的な印象はなおさら曖昧になり、こうしてディアッカと手を繋いだことでどこから見ても少年と少女の微笑ましいカップルにしか見えないはずだった。
 嬉しそうに笑っているディアッカをすぐ横に見て、イザークは手のひらだけじゃなく、なんだか体があったかくなってくるような気がした。
「ふん・・・単純な奴だな」
 そういわれたディアッカはイザークの頬の赤みが引くどころかどんどん増していくのがわかって、くすりと笑う。
「そう? イザークもそうとうわかりやすいけどね」
 言われたイザークはふん、と横を向いてつかつかと歩き出す。それに引きずられるようにしながらディアッカは慌てて並ぶように横についた。
 絹のような銀色の髪は強く吹く風に舞い上がってサラサラと揺れている。そしてその合間から見える耳はほんのりと赤く染まっていた。天邪鬼な少年は実は誰より正直で、感情を隠すことなんて出来ないのだ。
「母上がお茶を用意して待ってるんだ、とっとと帰るぞ」
 照れ隠しにそんなことを言うイザークにディアッカは目を細めると、握っていたその手が強く握られた。
 少し驚いて歩を緩めたディアッカにイザークは振り返る。
「何だ?」
 自分を見つめるマフラーよりずっと濃いブルーの瞳に目を伏せて口元だけでディアッカは小さく笑う。
「別に」
 そういうとディアッカはもう一度イザークに並んだ。
 そして歩道に溢れる落ち葉をサクサクと踏みしめながら、二人は手を繋いだまま、冷たい風の吹く中を楽しそうに歩いていった。






END




2005/11/12



あとがき。

落ち葉を踏みながら歩いていて思いついたので。
二人は幼年学校くらいの設定です。
イザークは熱血だけど寒がりっていうのは無理やりなのかなーとか思いつつ。
こーいう話はいつもワンパターンなのであまり書いちゃいけないなと思うのですが、
テーマも何もない話は確かに書きやすかった。