「ほら、こんなに濡れちゃってるじゃん」
ディアッカの指摘で初めてその事実に気づいたイザークは面倒くさそうに確かめるが、それで手にした本を手放す気もなく立ち上がろうとなんてするわけもない。
「やっと届いた本なんだ」
それだけ言ってディアッカを見るが、そんな視線に負けていてはイザークの世話なんてしていられないとばかりに、無言のうちにおねだりを却下する。
「あとで読めばいいでしょ」
「けどな!」
それでも食い下がろうとするイザークにさすがに痺れを切らしたディアッカは仕方がないなとばかりに小さく息をつくと、更に強硬手段にでることにする。
「今乾かさないなら、襲っちゃうよ」
「なっ」
さすがに予想もしなかったディアッカの言葉にイザークは驚いて言葉を失うが、それでも本は離さないでまだ食い下がろうとしているようだった。
「昨日約束したでしょ。イザークが本読む時間取ってからと思ったんだけど、乾かさないっていうならこのまま押し倒すよ」
ディアッカの目は穏やかではなく剣呑な色が浮かんでいるのをイザークは見、意識せずにごくりと息を飲んで、ときどきあるディアッカの真剣な顔に相当長く付き合っていても慣れない自分を思い知らされてふてくされるように顔を背けた。
「どうする? ここで一旦読むのを止めて時間を確保するか、それとも今日はもう読めなくなるか」
選択肢なんてあるわけない言い種に蒼い目で睨むように見つめるが、そんなことでディアッカが動じるはずもなく、「さぁ」とばかりに顔を近づけて覗き込み、決断を促すようにパープルアイを瞬かせている。
「早くしろ」
横柄に言うイザークがあきらめて読んでいたページに栞紐を挟んで閉じ、脇において胡坐をかくのを確認してディアッカはバスルームに戻ってドライヤーを取ってイザークの脇に座り、プラグを差し込んで温風を手のひらに受け止めて温度を確認すると、自然と自分の方へ背を向けたイザークの髪に手を差し入れて水に濡れて濃く光る銀の髪にその風を当てる。
ところどころ束になっていた銀糸の髪は風を受けてサラサラと絹の輝きを取り戻し、褐色の手のひらでやわらかく風に舞い、形状記憶のごとく重力にまっすぐに従う。その性格をそのまま表したかのような毛質にはいつもあきれつつも、それでもその手触りが自分は好きなのだと思い、同じ手順を幾度も繰り返してキレイに切りそろえられた髪の全てを透明な光へと変えていく。
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