自分の好きなもの、それは自分が選んだもの――。





My favorite






 先日の校内テストの結果の掲示に大勢の生徒が群がっている。
 
 入学以来、指定席である首位に名前を掲示されているのはイザーク・ジュール。この幼年学校では名物ともいえる人物で、今回の成績も満点にいくらか届かないというダントツの出来だ。
 その彼が掲示板の前に来るのは自分の成績を確かめるためではなく、どちらかというとそれ以外の目的の方が大きいらしい、というのは最近の彼の行動を知ってる同じクラスの生徒たちの共通した認識だった。

「ディアッカ、お前・・・」

 隣に並んで掲示板を見上げているクラスメイトに渋い顔をしてみせる。

「うっわー、やっべぇ」

 全然そんなこと思ってないと明白な表情で浅黒い肌に金髪の少年、ディアッカ・エルスマンは肩をすくめて笑う。

「何がヤバイだ、ぜんぜんやる気出してないだろう、何だこの成績は!」

 白い指先が示すディアッカ・エルスマンの名前の順位は12位。学年の生徒数が358人ということを考えれば充分優秀な順位なのだがイザークは彼の実力を知っているだけに、こんなもんじゃないだろうと不満でいっぱいだ。

「でも15位以内だぜ、ぜんぜん問題ないじゃん」


 二人で連れ立って行動するようになってからしばらくして、イザークはディアッカに校内順位を15位以内にキープすることを強要した。何故かと理由をただすディアッカにイザークは淡々と「俺の友人であるならそれなりの成績優秀な人間である必要があるからだ」と告げたのだ。一方的な通告に完全に納得したわけではなかったが、ある程度の成績を収めておくことは今後の自分に優位になるだろうことは予想できたからディアッカは黙って頷いたのだった。
 なぜ5位や10位じゃないのかと不思議に思って聞くとイザークはこれまた淡々といったのだ。
 「お前には無理だから」と。
 一刀両断だった。
 ディアッカの性格を良くも悪くも理解してしまったイザークは、程ほどのゆとりがディアッカをディアッカたらしめる要素であるとわかった上でそれでも契約を迫ったというわけだ。恐れ入ったとディアッカは笑い、そんなことをするイザークの存在が面白かった。
 そもそも自分に何かを求められるということ自体ディアッカには経験がなかった。親からは何も期待されなかった。好きなように生きていける自由というのは同時に無関心という孤独とも無縁じゃなかった。だから、イザークに何かを求められることは楽しかったし、それが自分を理解したうえで求められるとあればなおさら。
 孤独じゃない、自分を確かに支えてくれる存在が心から嬉しかった。





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