言いながら連れ立って歩く。すぐ目の前から桜の森は始まっていてそれだけでも十分にキレイだった。
「よく、こんな場所知ってたな」
きりがないくらい続く桜の群生にイザークは驚きを口にする。
「偶然見つけたんだ。オレだけの秘密の場所だったんだけどね」
言いながらウインクをしてみせる。腕に巻かれたハンカチのせいか、なんだかいつもよりイザークを近くに感じる。
「秘密なのに、俺を連れてきたのか?」
素朴な疑問を口にするようなイザークにオレは笑いながら答える。
「イザークには見せたかったんだ、これをさ」
言って腕を広げた先に一本の巨木が現れた。見事な枝ぶりに隅々まで花をつけた桜の木。
「こんな木があるのか・・・」
その光景に呑み込まれたイザークがつぶやいた。
「ただの移植じゃなくて、遺伝子操作受けたみたいだよ。オレらみたいにね」
「この木もある意味コーディネーターということか」
イザークの言葉にオレは頷く。
「そういうこと。プラントにはなんかふさわしいよな。・・・真下に行くともっとすごいから行こうぜ」
言ってオレは走り出す。イザークも慌ててそれに続いた。
「待て!」
イザークの呼ぶ声にオレはもっと先を急ぐ。
「遅っせーよ」
二人で競うようにして桜の森の中を走る。ただそれだけのことなのに、オレはとっても嬉しくて、楽しくて。
「着いたっ!」
「くそっ」
ほぼ同時にその幹に手をついたけど、少しだけ遅れたイザークが悔しそうに言った。
二人で幹にもたれかかりながら暫く息を整える。
「イザーク、上見てみろよ」
オレが指差した天井をイザークは素直に見上げた。
そこは隙間なく咲き誇る桜の花が、淡いピンクの空を作り出している。
まるで大きな傘を開いたようなその枝は、見事なまでに空の色をさえぎるほどに目一杯に広がっていた。
「すごい、キレイだな・・・」
惚けるように見続けるイザークを見ながらオレは聞いた。
「気に入った?」
「ああ」
本当に喜んでるみたいで、イザークにこの景色を見せられてよかった、とオレは思った。
「そっか。よかった」
イザークはまだずっと空を見上げている。
「桜って、その地面の下に死体が埋まってて、その血を吸い上げるから薄紅色なんだ、って説もあるくらいちょっと気味の悪いキレイさだけどさ」
「そうなのか?」
イザークは素直に聞いてくる。
「うん。でも、なんかここまですごいと圧倒されるよな」
「そうだな」
そのまま二人は黙ってしばらくそのまま桜の空を眺め続けた。
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