Don't cry

「だいたいな、お前は白兵戦訓練になるとやる気がなさ過ぎるんだ」
 一日の課程を終えて、アカデミーの玄関を出ると、とたんにイザークは説教を始めた。言われたディアッカは、さっきのクラスでそのイザークに食らった腕の腫れをかばっている。
 いつでも本気、負けず嫌い全開のイザークは主席のアスラン相手でもやる気がないとわかっているディアッカ相手でも手を抜かない。おかげでディアッカは白兵戦のクラスのたびにあざが増えている。
「だってさー、MS戦ならともかく、ナチュラル相手に白兵戦なんて、絶対勝つに決まってんだろ。なのに本気で訓練したって意味ないじゃん」
 というのは半分本気。半分は相手がイザークだから。いくら武器がレプリカとはいえ、きれいな顔に傷でも作ったらと思うと、本気になんてなれるわけない。そんなこと知ったらこいつはぶちきれるだろうけど。お前など本気をだしたところで、俺にかなうはずはない、とか何とか言って。
「いつでも万全の状態で敵に遭遇するとは限らんだろ。6割の状態でも敵を倒すには、普段から状態をベストにすることは必要だ」
 下校時刻にあわせて校舎からは次々と生徒たちが出てきていた。その中でもイザークの風貌はかなり目立つというのに、大きな声を上げているから余計に目立っている。こいつは本当に自覚がなさすぎ。ま、そーいうとこがかわいいんだけどさ。
「そりゃそーだろーけど。白兵戦なんて最終兵器みたいなもんだろ。オレらはMSに乗ってるんだし。仮に乗ってない状態でも、銃器だってあるわけだしさー」
 するとイザークはさらに怒りの温度をあげた。
「射撃のクラスだってお前は成績よくないだろうが」
「だって、バーチャルシミュレーションならともかく、あんな的を撃ったって楽しくないし。だいたいオレだって、成績7位なんだぜ、ひでーよ」
 イザークにかかれば一位じゃなければ意味がないんだから。
「あのニコルだって5位だぞ。お前はやる気をだせばもっと上位のはずだろうが」
 引き合いに出されたニコルは、爆弾処理で一位というかくれた才能を示しはしたものの、基本的にはディアッカと同じような位置にいる。けれど、それがイザークにはなおさら気に入らないらしい。ニコルはアスランになついてるから。
 そしてそのニコルとアスランはちょうど玄関を出てきたところらしかった。それには目もくれず、イザークは正門に向かっている。
 そのときだった。
 

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