イザークはあの日のことを思い出していた。
ディアッカの不真面目さを責めていた自分。あんなことを言っておきながら、自分が狙われた瞬間にはそれにまるで気がつかなかった。ディアッカは自分を身を挺して守ってくれたのに、ずっと一人でこんなところに閉じ込められていてきっと寂しかったに違いない。だけど、自分は見舞いにすら来ようとしなくて・・・。それどころかまだ助けてもらった礼すら言っていない。ディアッカは何も悪くないのに、被害者なのに・・・。
「・・・のに、」
小さく聞こえた声にディアッカはイザークを見る。
「俺は卑怯者だ・・・お前がこんな怪我したのが俺のせいだというのを見たくなくて、認めたくなくて、逃げて、いたんだ・・・」
責めることもなく、笑って迎えてくれた。いつもと同じようにからかうようなことを言って。
「・・・っ」
息を飲む音のあと、蒼い目からポロポロと涙が溢れてくる。
「イザーク・・・」
立ったまま手をぎゅっと握っているイザークにディアッカは上半身を乗り出してぎりぎりに届いたイザークを掴まえると腕の力だけでぐっとその身を引っ張った。
「・・・!」
不意打ちにバランスを崩したイザークはそのままベッドの上のディアッカに倒れ込む。
「泣かないでよ・・・」
ディアッカは困った顔をして銀色の髪ごとイザークを抱きしめる。
グスグスっと声を漏らすイザークに甘い口付けを落として、ディアッカはその髪を撫でた。
「イザークが泣いても、オレ、何もできないんだから・・・困るってば・・・」
それでもシーツを握り締めて嗚咽を漏らし続ける。どうにかしようと思っても、腰から下は固定されているし、片腕には点滴がされたままなのだ。
「イザ?」
収まってきた泣き声にそっとその名を呼ぶと、イザークはゆっくり顔を上げた。蒼い目は真っ赤ににじんで、鼻の頭も赤くなっている。
「あぁ、もう、そんなに泣くから・・・ボロボロだよ、せっかくのキレイな顔が」
「俺のことなんて・・・どうでもいい・・・。お前、怪我は・・・」
どうなんだ、と怖くてその先を継げられないイザークは視線で問いかける。
「明後日手術するけど、別に大したことないよ。場所が悪かったから時間はかかるかもしれないけど、治らない怪我じゃないって」
「治る、のか・・・」
「あったりまえでしょ。それよりオレはイザークが傍にいないことの方が辛いよ」
見上げてくる瞳に悪戯っぽく笑う。
「ディア・・・」
いくらかほっとした顔で自分を見るイザークに上半身だけかがみこんでディアッカはそっと額にキスをした。
それに怒るでもなく、それよりもイザークは何か言いたそうな顔をする。
「何?」
「・・・すまない、・・・助けて、くれて、その・・・・・・」
促されてようやくのように切り出したイザークはけれど最後まで言えなかった。ありがとうなんて言葉、イザークは言った事がなかったのだ。
「いいよ、わかってるから。ここにきてくれただけでオレは嬉しいよ」
甘く笑いかけるルームメイトは、どこまでもずるいとイザークは思う。先回りしてそんなことをされたら、自分はもう何も言えなくなってしまう。いつも、そうだ。
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