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イザークがアカデミーの所有であるエレカを猛スピードで飛ばしてメディカルセンターに到着したのは面会時間の終了まであと30分という時刻だった。
パーキングに止めるのももどかしく、停車したドアから転がるように降りて病室へ向かう。
「くそっ」
なかなか降りてこないエレベータを待ちきれず、そのドアをどかっと蹴り付けるとイザークは階段へ向かう。ディアッカの病室は7階で、普通なら階段を使う者なんていない階だったが、今のイザークには帰る見舞い客を各階で拾いながらちんたらと降りてくる箱なんて待っていられなかった。それに7階まで駆け上がるなんてイザークにしてみればいつもしているトレーニングに比べればたいしたことない運動だった。
人の通らない無機質な階段を駆け上がりながら、イザークはなんで自分はここに来ようとしなかったんだろうと小さな後悔が胸の隅に疼くのを感じていた。
その階に辿り着くと案内板を頼りに一目散にディアッカの病室を目指す。部屋番号なんて確認する必要もなかった。
「ディアッカ・・・!」
病室のドアを開けるなり、イザークはそう名を呼んでいた。
目の前のベッドには見慣れた金髪の少年が一人。
「えっ、イザーク?」
驚きに紫の瞳を見開いてこちらを見るが、怪我した部位ごと下半身を固定されていてベッドから降りることはできなかった。イザークは数歩ベッドに歩み寄るが、その痛々しい姿を見てそれ以上近寄ることはできない。ベッドサイドからは点滴のチューブが伸びていて、褐色の腕にはサージカルテープで止められた針が深く食い込んでいる。それに構わずにいつもと同じグラビア雑誌を広げていた膝から脇に下ろした。
立ち尽くしているイザークにディアッカは小さく笑う。
「大げさなんだよな。一発銃弾食らったくらいで、こんなにしてさ」
そうして手招きしてイザークを呼ぶ。その様子はまるでけが人なんて思えないほどいつもどおりだ。
「来てよ」
オレ動けないから・・・。そう目で伝えてイザークを見上げる。
「・・・」
そろそろと近づきながらイザークは何を言ったらいいのかわからずに唇をぐっと噛んだ。
自分のせいでディアッカはこんな目に遭ってしまった。そう思うとイザークの心が重く沈みこむ。
「せっかくきてくれたのに、キスの一つくらいしてくれないの?」
茶化して笑うディアッカだったが、イザークは動けない。
「イザーク?」
手が届きそうな距離に立ったままのイザークを覗き込む。
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