「貴様っ・・・」
 ばっと立ち上がってニコルに詰め寄ると、その襟首を掴み上げる。
「っ、やめてくださいよ、本当のことでしょう?」
「・・・っ」
 ディアッカとは違うやりとりと、その冷静な指摘にイザークは苛立つ。
 ちっと舌打ちしてニコルを突き放すと、どっかりとベッドに座りなおした。
「行かないんですか?」
「なんで俺が行くんだ? あいつはただのルームメイトだ、命がどうこういうんじゃないんだから、いく理由なんてない」
 ふん、と腕を組んで視線をそむける。
「理由がないってそれが理由ですか?」
「そうだ」
 その答えにニコルはあからさまに笑う。それにイザークは更にムッとした顔をする。
「イザークって意外とバカなんですね」
「な、なんだとっ、貴様っ」
「理由なんてそれで充分でしょう」
 何を言われているのかわからずに物問いだげな顔でイザークはニコルを睨む。
「充分?」
「なんだっていいんですよ理由なんて。本当は必要ないんですから。あなたが欲しがるというのなら、『ルームメイトだ』というので充分でしょう?」
 その言葉にイザークは苛立たしげに壁を向いた。
「僕たちは同期生だから行ったんです。なのにルームメイトが行かないのはまずいですよね」
 黙っているイザークをニコルはじっと見ていた。ディアッカが動けない以上代わりに動いてやるしかない。この貸しは高いですよ、と内心思いながらニコルはイザークを後押しする。
「・・・そこまで言うなら行ってやる」
 居丈高な物言いに、ニコルはまったく、と思いながらも彼らしく微笑んだ。
「えぇ、そうしてください。帰りは何時でも構いませんよ。門限に間に合わなかったらディアッカの使う裏口を開けておきますから」
 にっこり、笑ってニコルが言うとイザークはそれまでのためらいが嘘のように、すばやく立ち上がってイスにかけてあった上着を引っつかむ。ドアに向かう背中に、
「エレカの使用許可はあなたの名前で取ってありますから」
 と駄目押しに言ってニコルはひらひらと手を振った。それを振り返ることもせずに、イザークはエントランスへと駆け出していった。




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