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 アカデミーの寮に戻ったニコルは、まっすぐにイザークの部屋を訪れていた。
「イザーク、いますか」
 この何日間か、すっかり部屋にこもりっきりでいることを知っていながら、ニコルらしく律儀に確認する。
「ニコルか?」
 沈んだトーンの返答がしてから、ニコルはドアを開けた。
「何してるんですか?」
 ベッドの上に膝を抱えて座っている、らしくもないイザークに半ばあきれながら尋ねる。
「別に何もしてない」
 むすっとして、けれど物を投げたりしてやつあたりするほどの気力もないくらいに落ち込んでいるらしいイザークは顔だけ上げて答えた。
「そうじゃないですよ。なんでディアッカのところに行かないんですか」
 ディアッカ、の名前にびくりと反応しながらそれでも知らん顔をして膝を崩し胡坐をかいただけだった。
「別に・・・俺が行ったところで何の役にも立たないからな。アイツは病院にいるんだ、人の助けがいることなんてあるわけない」
 取り澄ましたようなことを言っているが、今日の射撃の成績はごまかしようもないほど無残だったのだ。意地を張っているというのはニコルにでも、いやきっとアスランにだってわかることだ。
「本気で言ってるんですか? あんなに派手にマト外したのに」
 わざとイザークを煽るような言葉を選んでニコルは言う。
「だまれっ、用がないなら出て行け!」
 とたんにイザークは枕を投げ飛ばした。それを器用に避けながらニコルは尚も言葉を続ける。
「ディアッカじゃないんですから八つ当たりはしないでくださいよ。何を意地張ってるんですか、あなたは」
「意地なんて張ってない。俺だって暇じゃないんだ、見舞いなんかに言ってる暇あったら訓練するんだからな」
「ずっと部屋に籠もって、何の訓練をしてるんです?」
 ちくり、と蜂の一刺しとばかりにイザークを追い詰めるニコルはじっとイザークを見つめた。
「ディアッカはあなたのことを気にしてましたよ。大怪我してるっていうのに、気苦労な人ですよね」
「ディアッカが・・・?」
 話に興味を持ったらしいイザークにニコルはメモを渡す。
「これ、病室の番号です。自分のことでイザークが落ち込んでるんじゃないか、って言って」
「俺が落ち込む、だと?」
「そうですよ、現に今日のイザークはボロボロでしたしね」
 まさか射撃であなたに勝つとは思いませんでした、とニコルは付け足して笑う。


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