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 その後、軍病院に運ばれたディアッカは緊急手術を受けて集中治療室に閉じ込められた。
 事件の現場がアカデミーだったから、対応が早かった。
 すでに事件から3日経つが、ここから出られないディアッカは外部との連絡が取れないでいる。
 事件直後にはアカデミーの関係者たちが駆けつけたということだったが、その後は来訪者はないらしい。誰でもいいからイザークのことを聞きたかったが、それはかなわずにいた。
 あいつは大丈夫なのか。自分の怪我どころではなく、それだけがディアッカには心配だった。

 その日の午後、ニコルとアスランが見舞いにやってきた。
「ディアッカ、具合はどうですか?」
 似合いすぎる花束を手にしたニコルが聞いてくる。
「まぁ、とりあえずは命はたすかったし。手術はまだだけど、大丈夫だ」
 ディアッカが言うと、アスランが口を開いた。
「犯人はやはりブルーコスモスだった。狙いは、イザークだったらしい」
 その言葉にディアッカは一瞬息を呑む。やっぱり、と。
「イザークの写真データを所持していたそうです。彼は目立ちますからね」
 フォローするようにニコルが説明した。
「あぁ。そうだろうな」
 あれだけの美貌、そして彼特有のオーラ。コーディネーターの中でもそうとう目立つ存在なのだ。それがアカデミーという施設の中でそろいの制服を着ているといしたら、鳩の群れに白鳥がいるようなものだろう。そして彼の母親は評議員のなかでも確実な有力者だ。ターゲットとしてはもってこいの存在なのだろう。
「でさ、どうしてる?」
 名前は出さずに様子を聞く。アスランには解らなかったようだが、ニコルはすぐに反応した。
「一応平静を装ってますけど、射撃実習で的を外してましたから・・・」
 言外に多くを語る言い方だったが、それで十分だった。射撃で的を外すなんて、普段の彼ならありえない事態だ。そうとうきてる。自分をかばってオレが怪我をしたということは彼にしてみれば自分を許せないに違いなかった。無茶でもしなければいいが、と思うがそれをいくらニコルにだって言うわけにはいかない。
「そっか」
 それだけ言って黙ったら、その胸中を察したようにニコルが言葉を継いだ。
「手術の予定はいつなんですか」
「多分明後日。早いほうがいいってオレが催促したから。無理やりそこになった」
 笑いながらディアッカは話す。一日でも早くイザークの元に戻りたくてそういうことを言ったのだ。こういう事態になったなら、ますますそれは正解だったと思う。
「じゃあ、復帰は1ヵ月後くらいか?」
 リハビリも含めるとそれくらいの日数はかかりそうだなと思いながら、アスランの言葉にうなずく。
「こういう状況だから少しでも早く戻りたいとは思ってるけどな」
「あまり無理はしないでください、ディアッカ。イザークのことは出来る範囲でフォローしますから」
 ニコルはさりげなく相当なことを言ってくれる。それに苦笑しながらディアッカはこういう人間が身近にいることを感謝した。
「ああ、頼むよ」
 持ってきた花束をきれいに生けるとニコルとアスランは帰っていった。再び一人病室に取り残されたディアッカはただ、イザークのことだけを考えていた。できるなら今すぐにでも飛んでいってあいつを抱きしめてやりたい、そのことだけを。





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