「なにっ、どうしたんだっ」
 ディアッカの肩を掴んで揺さぶろうとするイザークの腕を血にまみれた手で押さえながら、ディアッカは笑って言った。
「バカ、怪我人を揺らすなよ。イザークのくせになにやってんだよ」
 イザークのくせに。そう、彼はいつも冷静で偉そうにしていなくては。ディアッカなんかのことで取り乱したりしないでくれ。少なくとも衆人環視の中では・・・。
 気がつくと騒ぎは大きくなっており、アカデミーの医療部から担架を持った人間がやってきた。
「大丈夫か?」
 医師が尋ねる。ディアッカは一瞬迷う。イザークのいる前で言っていいものかどうか、と。しかしいずれすべてが彼に伝わるのだから、と考えてその医師に向き直る。
「…右脚が動かない」
「…」
 それを聞いたイザークの顔が凍りつく。
「よし、わかった。そのまま動くな」
 言うと医師は周りの人間にすばやく指示をあたえた。ディアッカの身体は板の上に固定されて担架に乗せられる。
「このまま軍病院に連れて行く」
 医師はディアッカに告げると周りに合図をした。
 すくっ、と担架が宙に上がりしゃがみこんでいたイザークはその場に取り残される。担架の上から見下ろすとディアッカはイザークに言う。
「オレは大丈夫だから。それよりお前、早く寮に戻れ。まだ仲間がいるかもしれないからな、いいな」
 それにイザークは反応しない。心配するオレをよそに担架は正門へ向かう。その入り口近くで戻ってきたニコルとすれ違った。彼は上がった呼吸を整えながらディアッカに声をかけてきた。
「犯人は捕まえました。アスランがいま身柄を引き渡してます。…ブルーコスモスみたいです」
 やっぱりな、とディアッカは思う。軍関係施設の警戒は厳重とはいえ、アカデミーはまだ手の薄いほうなのだ。ありえない話じゃなかった。同時にニコルを見上げて言う。
「悪い、イザークを頼む」
 それだけで事情を察している彼は理解したようだった。
「わかりました」
 その言葉にディアッカは安心すると意識と共に全身の力が抜けていくのを感じた。



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