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「気がついたか」
 そう声をかけられてイザークは、寝返りを打つとゆっくりと目を開けて、辺りを見回した。
「艦のオレらの部屋だよ」
 声の主を探すと、ディアッカがベッドの上から見下ろしていた。
「暗い」
 その顔を確かめるためにも光が足りなかった。
「ああ、悪い。よく眠れるように消しといたんだ、ベッドサイドだけ」
 言いながらディアッカは手元のパネルを操作する。すぐにベッドサイドに明かりがともった。
「奥のデスクのほうは点いてるからいいかなと思ったんだけど。ほんと、だめなのな、お前って」
 そこではっとしてイザークはディアッカに確認した。
「俺は…?敵は?」
「お前は敵のサーベル食らってショートしたコクピットの中に閉じ込められて、俺がジン抱えて戻ってきたんだよ。怪我は たいしたことないみたいだけど、気を失ってたから点滴打たれてな。敵は士官が全滅させたよ」
 聞いてから後悔をしたが遅かった。自分がどうなったのか思い出して、情けなさに唇を噛む。
「おまえさぁ」
 言いかけたディアッカをさえぎってイザークは必死になって言った。
「わかってる、俺だって。暗闇が怖いパイロットなんて使い物にならないってことぐらいはな!今日だって気絶するつもりなんて なかった。俺はちゃんと意識は保ってた!」
 ぎりぎりとこぶしを握り締めて言う。それをみてあきれたように軽く息をついたディアッカはジェスチャーをしてみせた。
「ああ、こーいうやつ?」
 肩をすくめながら両腕で自分の肩を抱き寄せた。それはきっとイザークが無意識にしていた格好なのだろう。そのまま最後まで いるはずだったのに、と悔しさがこみ上げる。
「ただ、お前がっ。ディアッカの顔が見えたから、それで気が抜けて、油断して……」
 言ってしまってからあわてて顔を横に背ける。
「イザーク…」
 思わず出たセリフを聞き逃さずにディアッカはつぶやいた。そしてベッドに座りながら、ディアッカは単刀直入に聞いてきた。
「なぁ、なんで暗いのが怖いんだよ?」
 きっといつか聞かれるだろうと思っていたことだったが、こんな情けない事態が訪れるとは思ってもいなかった。これでは 話さないわけにはいかない。
「……」
 毒食らわば皿までと覚悟を決めて切り出した。
「家で…」
「えっ?」
 さすがに顔を見ながらなんて耐えられなくて、ディアッカから顔はそむけたままぼそりと続ける。
「うちは両親がいなかったから。夜は家で一人が多かった」
 ああ、とつぶやく声を聞いてさらに言う。
「小さいころ、一人で寝るのが怖かった。暗い部屋に一人でいると暗闇が迫ってきて押しつぶされるような気がしたんだ。
だから…それで…」
 あまりに情けなかった。幼い子供の言い訳だ、と思いながら、でも自分でもどうしようもなくて。零れそうになる涙を ぎゅっと唇をかんでせき止める。
 言いよどむとディアッカにやさしく抱き寄せられた。
「いいよ、もう言うな」
「ディアッカ…」
 見上げると優しい笑みとともに唇にキスが降りてきて、イザークは瞳を閉じた。その目尻から一筋のしずくが流れ落ちるのも かまわずに。


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