不意にディアッカは言った。
「暗闇が怖くないってわかれば大丈夫?」
「そんなこと、できるわけない」
 イザークは反射的に言い返していた。不可能だと。そんなことは自分で何度も試したことがあった。それでもどうしようも
なかったのだから。
「できるって言ったら?」
 軽い口調。またからかっているのだと思った。
「嘘つけ」
 けれどそれに対するディアッカの反応はいつもとは違っていた。
「じゃぁ試させろよ」
 言うと力任せにイザークは押し倒された。
「何するっ!」
 本能的にある種の危険を感じて抵抗を試みる。
「セックス」
 顔色も変えず告げるディアッカにイザークは自分の体温がかっと上がるのが解った。
「俺は男だっ」
 抗おうとするが体力勝負ではこの男にかなわないのはすでに証明済みだった。
「知ってる」
 両手を押さえて覆いかぶさってくる。
「お前が抱くのは女だろっ」
 ディアッカの女好きはアカデミーでもそれ以前でも有名な話だった。具体的には知らないが、呼び出す女に不自由はしないらしい。
いつも違う女を連れて歩いているという噂だった。
「今まではな。でも今抱きたいのはお前だ」
 目の前の瞳にいつもとは違う真摯な色を見て取って一瞬言葉につまる。これは冗談ではないのだと。
 本気なのだ、こいつは。
「もう限界」
 いいながら柔らかな唇に吸い付くような口付けをする。
「やめろ」
 いつものキスとは違うことを悟って、拒絶する。
 一瞬寂しげな瞳でディアッカが問いかける。
「オレが嫌いか?」
 その言葉はどこか寂しげで、切ないように感じた。
「……」
 本当は知っていた。
 ディアッカが自分をそういう風に思っていることは。
 軽いキスにも冗談のような抱擁にも、いつも一瞬ためらいがあることには気づいていた。けれど、イザークは
それに気づかないフリをしていた。これ以上進んでしまったら、今までのような関係ではいられなくなるのではないかと、
それが頭から離れなくて。
 同僚でルームメイト、その関係を失うのが怖かった。
 男女のいざこざはよくは知らないが、それでも別れただの修復したのだの、いろいろあるのはわかっていたから、
そんなことにでもなって失いたくないという思いが強くて。
 だから、ずっと今のままでいたいと思っていた。
 けれど・・・。
 考えをめぐらせていると、ディアッカがその身を起き上がらせようとした。
「わかるのか」
 口をついて出た言葉が自分でも信じられなかった。
 きっと、とっくに理解していた。
 このままでいるのは不自然なのだ、と。
「え?」
 ディアッカは驚いたように見下ろしている。
「怖くないって」
 離れていこうとするディアッカをつなぎとめるようにイザークは言葉を続ける。
「あぁ。お前がオレを嫌いじゃなければ、きっとな」
 嫌いじゃなかった。
 嫌いなわけがなかった。
 そんなやつと同室でなんていられない。そんな奴にキスなんてさせるわけない。
 そんな奴とずっと一緒にいたいなんて思わない。
 まるでその考えを読み取ったように、優しく笑うとディアッカはもう一度キスをしてきた。そのキスがいつもよりずっと
優しく感じられて、目を閉じながらイザークは最後の言葉を口にした。
「お前なら、いい」
 お前ならいい。
 本当はお前だから。
 お前じゃなかったらだめなんだ。
 ディアッカじゃなきゃ・・・。
 ふっとライトが消えた。意識するより前に自分の身体が緊張する。
 するとディアッカがそっとキスをしてきた。
「大丈夫、オレがいる」
 その声が甘い艶を響かせて耳に届く。
 胸元のボタンをはずす気配のあと、きつく肌を吸われた。痛みとは違う甘い痺れ。
「目を閉じて、オレのことだけ考えてろよ」
「わか…っ…た」
 言われなくてももうずっとそうしている。
 ディアッカにキスされているときはいつも。
 髪を払いながら、ディアッカは耳元に口付けてきた。ささやく声はそっと甘い。
「消えないようにオレの想い、ここんとこに刻み付けてやるから。お前は一人じゃないってしるし」
 言い終えると今度は心臓の真上にくっきりと跡が残るように、さっきよりずっときつくキスをされた。
胸に刺さるように痛い。
「暗くてもオレがいるのわかるだろ。ちゃんとほら、感じる?」
 ぎゅっと強く抱きしめられて、ほのかなディアッカのにおいに包まれる。
「あぁ」
 言いながらイザークは抱きついた。暖かい体温が直接に伝わってくる。するとディアッカは今までしたこともないような、
激しいキスをしてきた。頭の芯がクラクラとする。
「怖くないだろ、暗くても。暗いほうがずっと相手を感じられるんだけどな」
 怖いという感覚よりも、ずっと大きな別の感情が自分を支配している。
 ディアッカがずっと近い。
 イザークは自分の心臓がおかしいくらいに速く打っているのがわかった。
「暗いほうが、いい。明かりつけたら俺はっ…」
 自分がきっと女のような顔をしているに違いなかったから、そんなものを見られたくはなかった。
「なら、暗いまま、な」
 イザークの答えに満足したようにディアッカは言った。
 ぎゅっと目を閉じてイザークは知らず緊張していた。
「ちから、抜けよ」
 言いながら、ディアッカは甘いキスをしてくる。
 いつもよりずっと甘く、深いキスを。
「…んっ…」
 その舌に絡めとられるように身体から力が抜けていく。
「愛してる、イザーク」
 告げる声は甘い。けれど、からかうような色はない。
「オレがお前を守るから。暗闇の中でもいつも、ずっと」
 優しい声はしびれた頭の奥に届く。
 そうしてほしい。これからもずっと。
 言葉にしてはいえないけれど、精一杯うなずいてそれを伝えたかった。
 するとその願いが届いたのか、ディアッカは強く抱きしめてきた。
 それに身を任せるようにイザークは唇をそっと彼に重ねた。
 ほのかな光を掴み取るように、ディアッカの髪にそっと指を絡ませながら・・・。




END



2005/1/14





あとがき

ええと、やってしまいました。
また視点切り替えです
かなり前にかいた「 In the Dark 」のイザーク視点です。
ちなみにタイトルの意味は「ほのかな光」です
すでに出来てる話を使うのは、ちょっとな、と自分で思いながらかいていましたが、
コクピットでのイザークをかきたくて出しちゃいました。
極力整合性をあわせるようにしてますが、一箇所だけは見逃してください。
どこかとはいいませんが、イザ視点で書いたら削れなくなってしまいました。
イザ視点で書いたら、同じ話でもかなり甘めになりました。なぜなんだか。
でもうちのサイトに来てくださる方は甘いの大好きと勝手に決めつけてるので(笑)、
これからもじゃんじゃん甘い路線で行きたいと思います。
見捨てず、ついてきてくださいねっ(笑)