The dim light


 どうして、彼に打ち明けてしまったんだ。
 弱味を見せるなど、するべきではないというのに。

 彼は自分とは正反対の人間なのだろう。
 金色の髪に、褐色の肌。外見はもちろん正反対だが、一番ちがうのは温度だろうと思う。自分は怒りに駆られると急激に体温が上がるが、彼は逆だ。引いた態度で皮肉る。
 奇妙な関係であったが、ほかの誰より息が合うのは否定できない事実だった。
「同室になったのだからな」
 自分に言ってみるが、どこかしっくりとしない。同室の人間に夜通し明かりをつけていることを納得させるにはそれなりの理由が必要だったが、「暗闇が怖い」だなどと、本当のことをいう必要はなかったのではないか、と今更ながら思わずにはいられない。


◆◆◆


 それは宇宙空間での実戦演習中のできごとだった。
 突然、モニターに「ATTENNTION」の文字が表示されると同時に、コクピットにアラームがけたたましく鳴り響き、母艦からの通信が入った。
「16時の方向に熱源4! 敵モビルスーツ!」
「なにっ」
 先輩士官の緊張した声が士官生たちへも聞こえた。
「演習を中断。MSパイロットはそのまま戦闘態勢へ。士官生は現場で待機!」
 イザークの相手をしていた士官は軽く舌打ちすると、「無茶はするな」と言い残して迎撃に向かった。
「俺たちはっ」
 それについて行こうとバーニアをふかしかけたところで、ディアッカの乗る機体に引き止められた。幼馴染みの声が届く。
「この機体じゃ無理だ、落ち着けイザーク」
「ちっ」
 ディアッカの言うとおり、演習用の機体で、フル装備の敵機とやりあうのにはかなり無理がある。それに納得しながら、舌打ちをして制動をかけた。
「オレがあの機体に乗ってれば、あんなやつら!」
 今の自分が士官生であることが歯がゆい。配属になればトップガンとして赤い服を身にまとうことはすでに確定的であり、そうすれば彼ら士官の上に立つことになる。与えられる機体も上位機になるし、戦闘での判断行動の自由も段違いになる。
 今でさえ、彼らのジンに乗っていれば彼ら以上の働きをする自信は当然にあるというのに。
「敵、さらにMS2機接近!」
 レーダーに映る機影はMS同士の戦闘域を避け、直接母艦に迫ってくる。
「なんだとっ」
 思わぬ敵の来襲にモニターを睨む。その声にディアッカが続く。
「オレらの存在気づいてないっての? やってやろうじゃん」
「候補生は、後続MSが発進するまで母艦の援護を」
 CICの指示より前に、一瞬の判断で母艦を離れ、機体を発進させる。ディアッカもそれに続いた。
「なめたまね、しやがって」
 自ら敵のMSの軌道をふさいでおきながら、ライフルを撃って敵に突進する。
「ディアッカは右につけっ」
 位置の確認すら必要のないくらい近くにいる同僚にすばやく指示をだす。
「言われなくっても…」
 その答えに満足しながら、イザークは機体を駆って態勢を変えて敵を追い込む。
 残りのもう一騎は同期生3人が相手をしてることがモニターで確認できた。が、次の瞬間そのうち一騎は撃ち落とされたという表示が点灯した。
「ケイラーっ!!」
 仲間の声が響く。
「くっそうっ」
 かっとなってイザークは切りかかる。敵は器用に盾をかざしながら、ぎりぎりでその攻撃をかわしている。それでますますイザークの頭に血が上る。
「このっ、ナチュラルがっ」
 ディアッカは脇に控えてライフルを構えているが、熱くなったイザークはそのことすら頭になくなっている。
「イザークっ、いったん下がれ、オレが」
 ディアッカが言った瞬間だった。
 一瞬の隙をついて、イザークの攻撃をかわした敵機は、大きく反り返りながらも苦し紛れとも思われるような状況から、盾を投げつけてきた。
「なっ」
 不意をつかれたイザークはよけきれず、それがジンの右足をかすめとった。大きな爆破音とともにモニターには機体の状況を表す表示がけたたましく鳴り響く。衝撃による作用で機体は慣性に逆らえない。そのうえ右足をなくした機体のバランスを立て直そうとイザークは操作する。
「くっそ…!」
 しかし敵はその隙を見逃さず、瞬時にサーベルを振りかざすとジンのわき腹を切りつけてきた。紙一重の差でイザークは機体を横へ動かし直撃は免れたが、その攻撃は機体をかすめた。激しい衝撃がコクピットを襲う。
「うあっ」
 ヘルメットごと頭をシートにたたきつけられて、一瞬意識を失いかける。意識を保つために見開いた目の前で、モニターと数々の計器が一瞬にして光を失った。
 それに続くぱちぱちという音。
「なんだ、くそっ、どうなってるんだっ」
 怒鳴りながらあちこちを操作するが何の反応も返ってこない。カシャカシャというボタンを押すアナログな音だけがするだけだった。
 どうやら敵の攻撃はディアッカが何とかしたようで、続いてはこないようなので、それについては安心する。
「っ、だめか」
 しばらく猛烈な勢いで手当たりしだいのボタンを操作していたが、まったく反応がない様子にイザークはあきらめた。
 そしてコクピットは通信音すらない暗闇に包まれた。
 とたんにイザークの肌がざわざわと波立った。
 漆黒の闇。
 必死さで気がつかなかったが、自分の置かれた状況に気づいて愕然とする。
「…っ」
 たまらなくなって下唇をかんだ。何も見えない暗闇。震えだす手をごまかすように自分の両肩を抱きかかえる。
 そしてぎゅっと眼をつぶった。
「大丈夫、あいつがいる。ディアッカがいるんだ。あいつが何とかしてくれる。だから大丈夫だ」
 呪文のように繰り返す。
 突然の軽い衝撃の後に、機体が何かに運ばれている感覚が伝わった。
「ディアッカ!」
 通信も出来ない状況で確かめることはできなかったけれど、確信を持ってイザークはつぶやいた。
「ディアッカ…早く、ここから出して、くれ、ディアッカ…。」
 情けないくらい小さな声で相手に祈る。
 イザークはただ、トップガン候補生としてのプライドだけで震える肩を必死に押さえ、意識を保つのが精一杯だった。
 ともすれば気を失ってしまいそうな自分を必死につなぎとめる。
 ただ、ディアッカと呼び続けて。
 やがて、機体は母艦のデッキに立たされた。だが眼は閉じて、耳から聞こえる音すらシャットアウトしているイザークにもはや状況の判断はできなかった。
 その口からは小さな呟きが声にはならずに発せられているだけで。
 がちゃり、と音がしてコックピットのハッチが開けられる気配にようやくイザークは意識を外へと向けた。ゆっくりと顔を上げる。
 差し込む鈍い光と共にそこに現れた顔を認めると全身から力が抜けていった。
 そして最後にもう一度その名を呼んでイザークは意識を手放した。
「ディアッカ…」










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