「!」
 驚きに目を見開くディアッカに対して、イザークはその舌を歯列に割り込ませる。不器用なキスにディアッカは驚きつつも、それを拒むことはしない。
 なんで、必死になっているんだろう・・・さっきまでそう思っていた理由がわかってしまった。オレとこいつはそーいう仲なんだ、と。軍の中で男同士がそういうことになっても別に不思議じゃない。何よりこの同室者は半端な女よりもずっとキレイなのだから。
 けれど、この下手くそなキスからするに、オレのほうが仕掛けているんだろうな、とディアッカはぼんやりとそんなことを思う。
「・・・だめ、なのか。これでも」
 唇を離して伝う透明な糸を手の甲で拭いながら言う。その表情にディアッカはどきりとした。腫れた目と、赤い唇。その端に残る混ざり合った二人分の体液が、きれいな顔にひどく不似合いで、それが余計にみだらに思えた。
「え、と・・・なんとなく思い出しそうかも」
 すると、イザークはさらに深いキスをしてきた。
 ディアッカの胸がちくりと痛んだ。嘘をついてしまったから。思い出しそうな気配なんて全然なかったのに、イザークともっとキスしたいという欲求がディアッカにそう嘘をつかせた。
 ぎこちない舌の動き。きれいな見掛けとは違って、ずっと幼い印象のキス。けれど、そんな奴が必死になってるのが、自分に思い出させるためだと思うと、ディアッカはこの少年をかわいいと思ってしまう。
 深く絡み合う動きに、ディアッカは自然とその銀髪に手を添えてイザークを抱き寄せていた。遠慮していたつもりが、いつのまにかディアッカからイザークを求めていく。必死にそれにしがみつくようにしているイザークの舌にディアッカの背中はゾクゾクと電流が走った。
 え、これって・・・。
 ディアッカが一瞬意識を奪われて、絡まる舌の動きが止まったら、目の前に不安そうに自分を見上げている青い瞳があった。
「思いだしたのか」
 その目は少しだけ期待が見て取れる。ディアッカは少し考えて、イザークに言った。
「あのさ、単刀直入に言うけど、あんたのこと抱いていい?」
 するとイザークの顔は驚きに固まった。
「な、なんで突然そんなこと」
「んー、はっきり思い出したわけじゃないんだけどさ。思い出させるためにキスするってことは、そーいう仲なわけでしょ? だったらもっと強い刺激があれば思い出すかも、って話なんだけど」
 イザークは下を向いたままだ。やっぱり無理な話かな、とディアッカは考える。こんなストレートな要求を飲むとは思えなかったけど、言ってみただけなのだから。
「・・・いいぞ」
 ぼそり、と返ってきた答えにディアッカは驚いてしまった。
「え、本当にいいわけ?」
 だまったままコクリとうなずく。そして自分から軍服の上着を脱ぎ始めた。
 正直、こんなことになるとは思わなかったディアッカは逆に戸惑った。そんなディアッカにかまわずイザークはズボンも脱いでアンダーシャツも床に投げ捨てた。
「・・・」
   あまりに一生懸命で必死な様子にディアッカは言い出すタイミングを完全に逃してしまっていた。
「どうした、脱がないのか?」
 いぶかって聞くイザークにディアッカは慌てて服を脱ぐ。それを待つようにしてイザークは自分からディアッカに体を寄せてきた。
 肌を直接に触れ合って抱きしめあう。早い鼓動が感じられて、堪らずにディアッカはイザークを強く抱きしめた。
「イザーク・・・」
「ん・・・ディアッカ」
 深い口付けを交わして、抱きしめる。瞼に耳に、喉元に、唇を降らせながら、そっと名を呼ぶ。
 うっとりと瞼を震わせながら、自分の首に腕を回してくるイザークが、いつもよりもずっとかわいくていとおしい。そう思いながら、キスで胸元を辿る。ディアッカの髪に指を絡ませるようにして押さえつけているイザークは呼吸も浅くなって、すでに体中でディアッカのキスを感じてそれに酔っているようだった。
「イザ・・・いつもよりかわいい・・・」
 キスの合間にディアッカがそう言った瞬間だった。
 ぴくり、とイザークの動きが止まった。
 ディアッカはしまった、と視線を泳がせる。







⇒NEXT