the heat of tongue


 訓練中、ディアッカの乗った練習用ジンが一瞬、不自然な動きを見せた。
 それに気づいたのは、きっとコクピットの本人以外には、見学席にいたアスランとニコルと、そしてイザークだけだったろう。
「止めろっ」
 とイザークが叫ぶのと同時に、ディアッカの搭乗機が膝から崩れ落ち、相手の模擬サーベルがその機体に振り下ろされた。
「あぁっ!」
 叫び声はイザークのもので、
「ディアッカ!」
 学年トップに名前を連ねる同期生はその名前を呼んだ。
 強い衝撃音が響いて、それでも動こうとはしないディアッカ機にさすがに異変に気がついた教官が訓練の停止を命じた。
 コクピットの中でディアッカはヘルメットごと頭部を強打し、気を失っていた。
 軽い脳震盪だろうというドクターの診断をきいて、イザークたちはいつもどおりの授業に戻ることにした。イザークはベッドの上のディアッカを残していくことにかなり後ろ髪をひかれてはいたが。


 その日の授業をすべて終えて、イザークは医務室に駆け込んだ。
「一度気がついたようだけど、そのまま眠ってしまったようね」
 ベッドの脇に座り込んだイザークにドクターが声をかけた。目の前でぐっすりと眠ったディアッカの寝顔はどこか呑気にさえ見える。
 そういえば、夕べも遅くまで起きていたからな、と思い出したイザークは心配をして損をしたとばかりに盛大にため息をついた。そしてベッドの上のルームメイトをたたき起こす。
「おい、ディアッカ、起きろ!帰るぞ」
 強く身体を揺さぶられて、怪我人はけだるそうに瞼をあげる。
「んー・・・」
「寝ぼけてるんじゃない! 早く起きろ!」
 がなりたてるイザークに、ディアッカはゆっくりと視線を向ける。そして開口一番に告げた言葉はイザークの予想もしないものだった。
「えっと・・・あんた、誰?」
 言われたイザークの顔は凍りつき、ディアッカはきょとんとしたままだった。


『脳波に異常はないから一時的なものでしょう。心配は要らないわ。でもあまり無理やりに思い出させたりするのはやめたほうがいいわね。じきに思い出すと思うからあせらないで』
 ドクターはそういっていたが、イザークは心配でならなかった。自室に戻ってもベッドに寄り添って離れようともしない。
 逆に、ディアッカのほうがその様子に心配になってしまう。
「あのさ、別に怪我とかしてるわけじゃないから、付き添ってくれなくていいよ? あんたもすることあるんだろうし」
 その言葉にイザークは唇を噛む。『あんた』という他人行儀な言葉に距離を感じてたまらなくなる。
「夕食、食べられるか? 食堂に一緒に行ったほうがいいなら付き合うが」
 努めて冷静にいう目の前の少年にディアッカは、いい奴なんだろうなとそんな印象を持つ。
「ああ、じゃあそうるすよ」
 言ってディアッカは立ち上がり、先に部屋を出るイザークについて歩いた。






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