一番嫌いで一番好き





 ニコルが廊下を歩いていると遠くからドカドカドカッと大きな足音が聞こえてきた。それと同時に他の生徒たちは両脇に避けて、真ん中に彼のための通路ができあがる。
「くっそ、くっそーっ!!」
 そう人目も構わずにやってきたのは銀髪を振り乱して歩く、イザーク・ジュール。選択科目のために彼とは違う授業を受けていたニコルだが、毎回お決まりのパターンに何が起きたのかはすぐに理解できた。
 ドカッ。
 ロックを解除する間も我慢できずに自分の部屋のドアを激しく蹴りつけて、また凹みが大きくなった。やっと開いたドアをくぐる前にキーロックのパネルを猛スピードで操作してロックのパスワードを変更する。そして部屋の中に無言で入るとドアが閉まり、廊下にいた人間はみな、ほっと息をついた。
 しばらくそこで立っていたニコルだが、やがてもう一人の人間がやってきた。それはニコルの予想の範囲内だ。
「なに突っ立ってんだ、ニコル?」
「いえ、イザークがまた負けたみたいだったんで」
 アスランと勝負するたびに、そして負けるたびにイザークが物に八つ当たりするのはもはやアカデミーの名物だった。だからたとえ部屋の中から大きな物音がしたところで誰も驚くわけではない。
「あぁ、今日は柔術とかって授業だったんだけど、あっさり負けちまったからな」
 この時間に体術を選択しているアスランとイザーク、ディアッカは同じ授業だったのだが、様子を見ていないニコルでさえ、勝負の行方がわかるほどイザークの機嫌は悪かった。
「あっさり、ですか。珍しいですね」
「だからもう、手がつけらんねーし」
 自分の部屋のドアに目を向けながらディアッカが言った。
「イザーク、ロックも変えてましたよ」
 これから部屋に入るであろうディアッカにニコルはそんなアドバイスをする。
「・・・またかよぉ、アイツ、何回変えれば気がすむんだって・・・」
 そんなことを言いながらもディアッカは歩み寄ってパネルに手を伸ばす。そして何度かエラーで弾かれた後、小さく「ビンゴ」と声を洩らすと同時にドアは開いた。
「ったく、アイツも凝りねーよな」
 言いながらもディアッカ自身は懲りた様子もない。部屋の中の惨状を思いながらなのか、肩をすくめてから部屋の中に消えていく。
「あなたも相当懲りてませんけどね」
 何度勝手にパスワードを変更されても、どうやってか開けてしまうルームメイトに向かってそういうとニコルは自分の部屋に戻っていった。







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