「お前なんか嫌いだ」
 ぼそり、とイザークは声をもらした。

 まるで母親のように全てを理解して受け止める存在。それがなければ自分は悔しさを鎮める方法を知らなくていくら物を壊したところで、きっといつまでもこの感情に振り回されているのかもしれない。
 そう思うと、こんな自分にしたコイツが嫌だった。

「へぇ、アスランよりも?」
 からかうようなディアッカの言葉が振って来る。そして何よりアスラン、の名前にイザークはカッとなってディアッカを見上げた。
「アイツは問題外だっ! 俺にとってあんな奴は感情の対象外だ。だからお前が一番嫌いだ」
 一番、と言ってしまってからイザークは一瞬、はっと目を見開いて慌てて表情を隠すようにまた額をディアッカに押し付けた。
 
 一番嫌い、という言葉が本音じゃないのは当然、ディアッカにはわかっている。そして、嫌いという感情であっても、一番といわれるのは悪い気はしない。最悪なのは無関心ということで、それは賢明な者なら誰でも知っていることだからイザークはアスランを問題外だと言ったわけだ、真実はともかくとして。

「そりゃどーも。一番って言われるのは悪い気はしないね、イザークに言われるなら。でもオレはイザークのこと、一番好きだけどね」
 ディアッカの言葉に表情を隠しているイザークの、けれども耳が真っ赤になって言葉より雄弁に照れているのを物語る。
「ふ、ふざけるなっ、俺の嫌いの方がおまえの好きよりずっと上だ・・・っ」
 真っ赤な顔を上げて、どこか悔しそうにイザークは言う。
 それがまたかわいくてディアッカはニヤニヤと笑いが収まらない。
「ふぅーん、じゃあイザークはどのくらい嫌いなんだよ? クラス1? アカデミー1?」
「プ、プラント1だ!」
 もはや引っ込みがつかなくなったイザークは意地になって答えている。それがわかっているディアッカはおかしくてたまらない。
「あっそう。じゃぁオレは世界一だな」
 余裕で言えばイザークは悔しそうに歯噛みして睨むが、相変わらず離れようとはしないで、ディアッカの腕に緩く抱かれたままだ。





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