「で?」
 不本意そのままの顔でイザークは仮装肝試しのスタート地点に立っている。腕を組んで見るからに無理やり付き合わされたという顔だが自分で参加するといった手前引くには引けないらしい。しかもその肝試しがタイムトライアル形式の勝負だと知ってからは参加するなら勝たないわけにはいかない、と生来の負けず嫌いが災いしてか何気にやる気満々らしい。
「えっと肝試しは5箇所のポイントを回ってそれぞれの仮装パーツを回収しつつ・・・」
 イザークとのペアを組まされたアスランは解説書を読みあげる。イザークが確実に参加するためにアスランは監視役として付けられたのだ。
「仮装パーツ?」
「あぁ、仮装の衣装がばらばらに置かれてるからそれを集めてゴール地点で着替えた証拠写真を撮らないといけない、って書いてある」
 実はアスランだって詳細は今初めて知ったところだ。ミゲルの企画するイベントはいつも事前の開催宣言と当日の開けてみなきゃわかんないという行き当たりばったりの繰り返しなのだが、毎回なんとかなってるのは実は優秀なニコルやディアッカあたりのフォローのおかげだろう。アスランはこの手のことには役立たずだからと手伝いに借り出されることは今のところ一度もない。
「それが何で肝試しなんだ」
「消灯後だからじゃないかな」
 イベントの会場はアカデミーの敷地内、とだけあって校舎なのか寮なのかすら不明だ。だがどちらにしてもすでにほとんどの場所の照明は落とされて非常灯以外はついていない。
「ふんっ、明かりが消えてるくらいで怖がるなんて子供だましな話だな」
「まぁミゲルのことだからタイトルなんていい加減なんだろうけどな」
 アスランの言葉には説得力があってイザークはそれ以上何も言わなかった。毎度毎度どうでもいいお祭り騒ぎをぶち上げては巻き込んでいく先輩に深く考えろというのが無理な話なのはいい加減にみんながわかってることだ。
「それでスタートは?」
「23時ジャストだからあと1分だ」
 渡されたポータブルレシーバーにスタートと同時にポイントのヒントが送信されてくる段取りになっていた。
「仮装なんて今さら・・・」
 イザークはバカにするように言うが未だに仮装の内容が何なのかは知らされていない。というかいえるわけなかった。アスランじゃなくても他の誰でもだ。ミゲルはイザークの先輩なので何を言っても年上という特権で被害は免れることが多いのだが後で知って悔しがるイザークを楽しみにしているらしく何も言わなかった。

 あぁどうしよう。
 ひそかにアスランは葛藤してた。隣のイザークは制服姿だ。だがそれにカボチャパンツをイメージしてしまう。絶対にかわいい。かわいいに決まってる!
 だけど、自分がカボチャパンツを履かされると知ったらぶち切れるに違いない。唐傘お化けだってなだめるのに大変だったのに(あのときも結局アスランに勝負に負けたツケを払う形でイザークは折れたのだ)今度は女装だ。しかもよりによってカボチャパンツ・・・。
 ゲームの内容としては各ポイントで仮装の衣装を着ることになっているから最後のカボチャパンツにたどり着く前に気づいてくれたらと思う反面、チビ魔女になったイザークを見てみたいと思ってしまう。きっと鉄拳を喰らう羽目にはなるんだろうけど。

「何をぼーっとしてる、腰抜けが」
「え、あ、来たっ」
 レシーバーが反応してアスランは声を上げる。
「第一ポイント、ヒントはシューベルト」
「シューベルト?作曲家のか? ならピアノだな」
 イザークの答えにアスランは疑問を抱く。
「そんな単純な答えなのかな・・・」
 シューベルトといえばピアノ曲というのは音楽に詳しくない人間だって知っている常識レベルの話だ。ヒントというにはあまりにもストレートすぎるだろう。
「じゃあ他に何があるんだ!」
 苛立つイザークは一刻も早くポイントへ移動したいらしい。他に思いつく答えもなかったのでアスランは仕方なくイザークの答えに従うことにした。
「わかったよ。で、どっちにするんだ?」
 アカデミーの中でピアノがあるのは通称サロンと呼ばれている寮のラウンジと校舎の端にある音響室だ。普通の学校ではないので音楽室というものはない。
「音響室だな、ラウンジはまだ人が多い時間に仕掛けるなんて無理だろう」
 イザークの判断で二人は音響室に向かう。そしてその端にある部屋に到着すると一台のグランドピアノにポイントを示すカードが置かれていた。
「あった」
 喜んだイザークがピアノに触れようとする寸前でアスランがそれを阻止した。
「待って! これ、発火装置が仕掛けてある」
「なんだとっ?!」
 危うく手を触れそうになったイザークは慌てて手を引っ込めながらピアノの天井を覗き込んだ。
「ミゲルの奴・・・」
 ヒントが簡単なのはその場所で足止めする仕掛けがあるかららしい。
「そういう意味での肝試しか・・・」
 言いながらアスランは慎重に仕掛けを確認する。
「どけっ、オレがやる」
 言ってイザークは電子暗号ロックを解除にかかった。気合を入れて挑んだイザークだったがあっけなくそれは解除され拍子抜けした。
「なんだ」
「あったよ、衣装」
 グランドピアノの屋根を開くと中に仮装の衣装がおいてあった。ニコルが見たら怒り出すかもしれない光景だ。
「なんだこれは」
 渡された衣装を見てイザークはうなる。
「さぁ」
 ザフトの軍服とは違うロングブーツ。アスランの分は襟のたったシャツだった。
「とにかく次だ」
 あまり気にせずにイザークは勝負の勝ちを狙って急いでいる。ポイントの答えをレシーバーから送信すると次のポイントのヒントが送られてきた。アスランはどうしようかと悩みつつもそのイザークについていった。
「他の奴らはどこにいるんだ」
 次のポイントへ向かいながらイザーク聞いてくる。無理やり引き込まれたのでどんなゲームなのかはよく知らないのだ。だけど負けるわけにはいかないのがイザークがイザークたる所以といえるだろうけれど。
「それぞれポイントは違うらしいよ。タイムトライアルだけどコースそのものも違うって」
 ちなみに他の奴とはディアッカとニコル組、ラスティとミゲル組だった。ミゲルたちの分はニコルが仕掛けているのでお互いに隠し場所は知らないのだ。お互いのポイント通過時刻は全てレシーバーに送られてくるがまだイザークたちがトップだった。

「で、これか」
 次のポイントはモビルスーツ整備区画の工具置き場だった。そしてそこにあったのは
「ほうきだね・・・」
 もうバレるだろう、とアスランは思った。けれど勝ち負けに囚われているイザークはそれどころじゃない。
「こんな邪魔くさいもの持たせやがって・・・」
 それを持つとイザークは次のヒントを受信しようと急ぐ。
「ねぇイザーク、何の仮装だと思う?」
「そんなの知るか。それより早くしろ!」
 イザークはまだ気がつかない。というか仮装が何なのかよりも負けてたまるかということしか頭にないようだ。






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