「で、どーするよ」
 ディアッカがあきらめきってメンバーに向くとラスティは「オレはフランケンシュタイン」とすでに張り切って答える。
「ニコルは?」
「面倒くさくないのがいいですよね、衣装とかの準備なんてしてられないですし」
 実は誰よりミゲルに対して毒を吐いてるニコルはそっけない。
「賢者とかかな」
 小さくアスランが言ったのを聞き咎めたのはニコルだ。
「何言ってるんですか、アスランは狼男でしょう」
「えぇ?」
 強い語調で言われて戸惑うアスランにニコルは容赦なかった。
「イザークがメインなんですからアスランが狼男以外の何があるっていうんです」
 ずいぶんな言われ方なんじゃないだろうか、とアスランは思ったが口には出さないで黙ったままだ。
「ドラキュラって手もあるぜ」
 助け舟を出す気なんて端からないディアッカはニヤニヤしながらアスランをいじめる。「イザークなら血を吸われる美女も顔負けって?」
 ラスティはいつも余計なところで拍車をかけるが今日もその特技は十分発揮されている。
「なるほど。それも変態のアスランっぽいですね」
 取り付く島などまるでないと思っているアスランに構わずニコルは辛辣だ。
「じゃあオレが狼男やるからアスランはドラキュラやれよ」
「ディアッカの狼男ってのも洒落になってないじゃん!」
 女好きで有名なディアッカにラスティが笑うと本人はうっせーと声を上げた。コスプレは尻尾と耳でいいか、と計画を立てるディアッカに困り果てたアスランは縋るように聞く。
「イザークがどうなってもいいのか」
 それはディアッカにとって歯止めになるはずの言葉だったがすでに腹をくくったらしいターゲットのルームメイトには無意味だった。
「別に。ミゲルが悪いんだし、収まらなかったらお前に預けるし」
 よく逆夜這いに消えるイザークの行き先を知っているディアッカは簡単に言って笑う。
「カボチャパンツだぜ? 変態のお前なら見逃すわけないだろ?」

 イザークとアスランが付き合っているというのはこのメンバーの間では公然の秘密だった。いや、もう秘密なんてものですらない。この事実がばれたときは、普段からイザークの扱いには手を焼いている面子だけにあのイザークのどこがどうしていいんだか、とまるでゲテモノ趣味のようにアスランは不思議がられ、いつのまにかアスランは変態だから、と結論付けられてしまった。
 まぁ確かに、嫌がるイザーク相手にあんなことやこんなことをして、しかもそれが恐ろしく快感だと思っちゃってたりするので、自分としても変態の気があるのは否定できず、反論することなく今に至っているのはアスランの人生における唯一の落ち度なのかもしれなかったけれど。

 イザークのカボチャパンツ。
 右脳を働かせるのは苦手なアスランだったが、乏しいイメージを最大限に膨らませてみる。
 イザークの足は透けるように白いし肌はすべすべしている。顔は文句なく美人だったし、どちらかというと線の細い体は確かに女装だって似合いそうだ。
 しかもカボチャパンツ。
 昔絵本か何かで見たのを必死に思い出してイザークに置き換えてみると確かに悪くないかもしれない。ていうかぶっちゃけ見たいと思ってしまった。単なる女装なんかより数段よさそうだ。イザークみたいな奴にはばっちり美女のコスプレよりもちょっとロリの入った方がギャップがあって想像だけでそそられる。しかもそのパンツを履いたままのイザークを後ろから抱きしめて無理やり攻めてみたりしたら・・・。

「あぁ!アスランを暴走させないでくださいよ、ディアッカ」
 すでに妄想の世界に入り込んでいるアスランに周りの声は聞こえていなかった。伸びていく鼻の下と垂れ下がる目尻。何を考えているかなんて誰の目にも一目瞭然だ。
「アスラン!」
 ラスティが声をかけると同時に手に持っていた缶コーヒーを投げつける。すると一瞬前まで変態妄想ど真ん中にいたはずなのにアスランは見事にそれをキャッチした。腐ってもアスラン・ザラなのだ。
「で、アスランはドラキュラで決定ですね。フランケンシュタインと狼男と・・・僕はドワーフにでもしますよ」
 何事もなかったかのように話を続けるニコルにアスランは何も言えない。自分がイザークのカボチャパンツを楽しみにしてしまったのなんてもうバレバレだった。今さら文句なんて言ったらまた変態扱いされるのがオチだ。
「衣装はどうすんの?」
 ラスティが疑問を口にするとディアッカが問題ないという。
「時期的にいくらだって手に入るだろ、まとめてネットで頼めば良いさ」
「イザークのも?」
 カボチャパンツという単語を口にしないのはラスティなりのある種の防衛本能だ。これ以上アスランを妄想に走らせたら陰の実力者であるニコルの機嫌は急降下だろうから。
「仕方ないでしょう。ミゲルはどうせ自分のしか頼まないですし、これで僕たちが準備してなかったらまた先輩面してうるさくなりますから」

「で、誰がイザークに教えるんだよ? こんなイベント」
「それはルームメイトなんだからディアッカだろう」
 アスランはいつもの調子を取り戻して言ってみるがそんなの焼け石に水だ。
「冗談! 楽しみにしてるお前が言えよ」
「そうですよ、アスラン以外に誰がイザークのお守なんてできるんですか」
 そうそう、とラスティまで調子に乗ってアスランをからかう。結局何も言えないままイザークをイベントに引きずり込むのはアスランの役目になった。


 何とかアスランはイザークをミゲルの思いつきハロウィンイベントに巻き込むのに成功した。イザークの参加を知った周りのみんなはどんな手を使ったんだろうと不思議がったがきっとエッチの最中に無理やり頷かせたに違いない、ということで落ち着いた。なにせ変態アスランなのだから、イザークに「うん」と言われる手立てなんていくらだってあるはずだから。






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