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「おい、知ってるか?」
 夕食で混雑している食堂でディアッカが言った。クリームシチューをスプーンで掬いながらラスティが聞き返す。
「え、何が?」
 噂話が好きなラスティは知らなかったらしい。
「アスランのことだよ」
「アスランの?」
 ソースのボトルを取りながらニコルも興味があるらしい。
「いよいよ結婚らしいぜ」
 どこで仕入れた話なのか訳知り顔でディアッカは言う。
「結婚〜っ?!」
「ラクスとですよね」
 驚いた二人は同時に声のトーンを上げた。イザークはほかに席がないという理由で三人と同じ場所に座っているが興味のない顔でいる。アスランは通信の呼び出しがあってこの場にはいなかった。
「もちろんラクス・クラインとだよ。国防委員長が強引に話を進めてるとかって話でさ。地球連合がなかなか引かないからプラントの団結をより一層強めるために二人の結婚式をプロパガンダに使うっていうんで急いでるらしい」
 もともとアスランとラクスの二人の婚約は親同士の約束で、つまりは政治的な象徴として第二世代を代表するカップルを作るという目的があるのは誰の目にも明らかだった。そのことをアカデミーにいる者で知らない者はない。いずれは結婚するのだろうと誰もが思っていたけれど、それがこんなに早くなるとは誰も思ってはいなかっただろう。
「まだ在学中なのにですか」
 アスランがアカデミーを卒業して軍のそれなりの地位についてから結婚するのだろうというのが大方の見方で、だからこそニコルは驚きを隠さなかった。何しろアスランは成人しているとはいえまだ15歳なのだ。いくら成人を迎えたといってもコーディネーターの寿命が短いわけでもない。そんなに急ぐのは若い自分たちにとってはもったいないことのように思えたのだ。
「まぁ結婚しちゃいけないって規則はないし」
 サラダを口にしながらディアッカは言う。たしかに自分たちの代では既婚者はいないが、アカデミー設立時はまだ戦局は緊迫していなかったから少年よりも少し上の世代が主な生徒だったらしく既婚者もゼロではなかったらしい。
「だけど、そんな風になったらどうなっちゃうのかなー」
 ラスティは心配そうに言う。ルームメイトだけあって心配は人一倍のようだ。
「アスランのことだから別に変わらないと思うけどな」
 ディアッカの一言は説得力がある。今だってプラントのアイドルの婚約者という立場なのに成績のよさを除けば本人はいたって地味な存在だった。
「あ、でも新婚なのに寮暮らしってのは同情の余地ありだな」
 茶化して言うとニコルが年上の少年を嗜めるように睨み付ける。
「ははは、それもそうかもー」
 ラスティが笑ってニコルがため息をついた。その隣で食事を終えたイザークは黙って立ち上がる。
「今日もトレーニングするのか?」
 ルームメイトのディアッカが声をかける。
「あぁ課題を終えたらな」
 イザークの頭脳をもってすれば明日が締め切りの課題なんて一時間もかからないはずで、つまりはまた今日も部屋をあけて自主トレをするつもりらしい。
「あんまり無理すんなよ」
 イザークの腕の怪我はまだ抜糸していないのだ。
「余計な世話だ」
 それだけ言うとイザークはトレイを持って立ち上がった。噂話になんて興味がないし、何よりアスランが現れるよりも前にこの場を離れたかったのだ。






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