― Jealousy and kiss ―




 バカだ。
 バカみたいだ。
『プラントの歌姫、婚約者と夜を過ごす』
 目にした一文が頭から離れなかった。
 ディアッカが読んでいたグラビア雑誌、いくつものショットの中にはドアが閉じるエレベーターの中でキスを交わしているものまであった。
 それを見た瞬間、頭は真っ白になり、気づいたらその雑誌をビリビリに引き裂いてゴミ箱へ投げつけていた。それでもモヤモヤした感情は収まらなくて、汗をかいて忘れようとトレーニングルームを目指していた。
 頭ではわかっていることだ。プラントの誰もが知る婚約者同士。食事をしようとキスをしようとそんなのは当たり前のことだ。それなのに。なのに目の当たりにしてしまうと渦巻く感情は抑えられない。
「くそっ」
あんなものに振り回されている自分がひどくバカみたいだった。
「イザーク、ここにいたのか」
 振り返るまでもない、それが誰かなんて。
「何の用だ」
「明日の野外訓練は君とペアだったろう?だから確認しておきたいことがあって」
 いつも通りにアスランは言う。ありきたりな会話。けれど、今はそれでさえ腹が立った。
 あんな顔しているアスランが、あんな顔してキスしてるアスランが許せないなんて。自分でも信じたくないけれど、それが今の苛立ちの原因なのは明らかだ。
「そんなもの明日でいいだろうが」
 顔を背けたら、アスランに顎を押さえられ、強引にそちらへと向けられた。
「何をするっ」
「なんで怒ってるの?」
「怒ってなんかないっ」
「じゃあどうして俺のこと見ないの?」
 それに即答なんてできなかった。
「・・・いつのまにラクス・クラインとデートなんかしてたんだ、ずいぶん余裕だな」
 苦し紛れに出た言葉は情けないくらい女々しくてアスランはにやりと笑った。
「あの雑誌見たんだ?」
「ディアッカが読んでた」
「それでやきもち焼いてるの?」
「違うっ」
 ぎゅっと握り締めた白い拳をアスランは上から掌で覆う。
「あれはね、合成だよ」
「合成っ?!」
 見上げるとアスランは笑う。
「政治的な必要性ってやつだよ」
 ここに俺がいて二人がなかなか会えないっていうのは不都合らしいからね、と言われて唇を噛んだ。よく考えればアスランが寮にいなかった日なんてない。単純な話だ。
「イザーク」
 呼ばれて無理やりに合わせる視線に顔が熱くなるのがわかった。悔しいというより堪らなく恥ずかしかった。
「やっぱり君は最高だよ、そんなに反応してくれるなんて」
「う、うるさ・・・っ」
 間近に迫ったエメラルドの瞳に反射的に目を閉じてしまって、気がついたらキスをしていた。
「大丈夫、俺は君だけのものだから」
 根拠なく言うアスランが何よりムカつくのに、抗うことなんてできなかった。
「・・・合成の方がオトコマエだ」
「随分だな」
 苦笑するアスランの口がもう一度近づいてくる。やっぱりそれを抗えなくて、あれこれ考えた悪口を言ってやることはできなかった。


fin.



 初出:2006.9.18(イベント配布ペーパー)






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