Happy Happy Birthday



「ん・・・?」
 ガチャガチャと物音がしてアスランは目を覚ました。
「イザーク・・・?」
 いつも自分より目覚めの悪い恋人はベッドから姿を消している。そういえば今日は休みだったなと寝起きの頭で思い出して、それから慌てて飛び起きた。
「イザーク!」
 休みの日なのに早く起きるなんて何かあったに違いない、そう心配したアスランはけれども大きく予想を裏切られる。
「なんだ、起きたのか」
 キッチンに立つイザークはほとんど着たことなんてないエプロンを身に着けてボウルを片手にこちらを見た。
「何・・・してるの?」
 それはあまりにもマヌケな質問だった。どう考えても料理をしている以外にありえない状況なのだから。
「何って・・・料理に決まってるだろ!それより起きたんなら着替えたらどうだ。パジャマでうろつかれるのは好きじゃない」
「あ、うん・・・」
 事情が飲み込めないまま頷くが、アスランはハッとしてパジャマ姿のままキッチンに飛び込んだ。
「着替えろって言っ」
 ガシッと手首を掴まれてイザークは息を呑む。寝起きだっていうのにバカみたいに強い腕力はなんとかならないものか。
「何だ・・・」
「それ、ケーキ?」
 戦場のように荒れ果てたキッチンには粉とイチゴと生クリームと。それから・・・。
「み、見るなっ」
 アスランの視線の先に気づいたイザークが慌てて隠したその下には「HappyBirthday」と書かれたチョコレートプレート。
 ほわわん、と目の前にマヌケ面が出現し、イザークは嘆息した。
「起きる前に完成して隠しておくつもりだったのに」
 手にしていたボウルを置くとそのままイザークは腕を組んだ。
「とっとと顔洗って来い。せっかくの誕生日が始まらないじゃないか」
 そう言われたアスランだったがおとなしく従うことはなかった。
「イザーク!!」
「な、うわっ」
 ガバッと抱きしめられたイザークはそのままアスランの腕の中に納まる・・・と思ったら床に落ちていたバターの欠片に足を滑らせてバランスを崩した。
「危ないっ」
 抱きしめたイザークをかばうようにそのままアスランも床に倒れこむ。その衝撃で積んであった道具類がいっせいにバラバラと二人の上に降ってきてあたり一面が真っ白に染まった。
「げほっ」
「このバカっ!何するんだっ」
 声を上げるイザークの顔も髪も真っ白で可笑しくなってアスランは噴き出した。
「っはははは」
「何が可笑しい・・・」
 睨むブルーの瞳に一瞬でアスランは囚われてそのまま唇を押し当てる。
 口付けは粉にまみれた砂糖とバターの味がした。
「ありがとう・・・すごく嬉しい」
 まだケーキは出来上がっていないけれど。だらしなく目尻を下げて微笑むアスランにほんのりと頬を染めながらイザークは口を尖らせる。
「先に礼を言うな」
「え?」
 意味が分からず首を傾げると粉だらけの指先で頬を軽く抓られた。
「まだ祝ってないのに礼を言われたら俺が言うセリフがなくなるじゃないか」
 クスクスと笑うと「どうぞ」と促して待ち構える。それになんだか納得いかないながらもイザークは小さく息をつくと目の前のマヌケ面に向かって告げた。
「誕生日おめでとう」
 密かに焼き上げるケーキの計画はもう台無しだったけど、喜んでもらえたならよしとするか、そう心の中で呟きながら。 ゆっくりと目を閉じてお祝いのキスを贈った――。
 Happy Birthday Athrun!!
fin.



初出 2006.10.29
アスランオンリーイベント