semisweet


「せーのっ」

 イザークの掛け声でアスランの手のひらが天井に向けて開く。

―――チャリン。

 高く響いた音にイザークは悔しそうに顔を歪ませた。




「だからってなんでこーなるっ?!」

 ギャンギャン喚くイザークの口をアスランは下から―――そう、彼の顎の下から――手を伸ばして塞いだ。

「往生際が悪いよ、イザーク」

 自分のスタートの合図で相手が投げる10枚のコインをどれだけつかめるかというゲーム。アスランは見事にパーフェクトをして見せてイザークは一枚を取り損ねた。

 そして罰ゲームは。

「一度してみたかったんだよね、膝枕」

 イザークの足の上に優雅に寝そべった頭を乗せてアスランは言う。  その顔は「バカ」がつくくらいに満面の笑みだった。

「〜〜っ」

 ベッドの上、両足を伸ばした姿勢でアスランに枕にされているイザークはじっとしているのが何より苦手で、今にも「バカ」の頭ごと投げ出して立ち上がりたい衝動にかられる。
 それを必死に絶えているイザークに気づいてアスランは笑いかけながら言った。

「本でも読めば?」
 
 約束の時間は30分。
 その間はじっとしていなければならないわけだが、イザークがそんなに長くじっとしていられる状況といえば読書のときくらいなのだ。
 気を利かせたはずのアスランの言葉にイザークはフン、と鼻を鳴らしてみせた。

「そうだな。こんなに広いデコなら本を載せるのにちょうどいいしな!」

 言ってアスランの額の髪をかき上げる。

「酷いな!自分が負けたクセに」

 慌てて前髪を戻しながらアスランはイザークを睨みつけた。イザークはというとベッドの脇から本を手にとってパラパラとページを捲っている。

「イザーク!聞いてるのか?!」
「何だ?」

 抗議する視線に楽しそうに笑ってイザークは本を脇へと置いた。

「それにしても貴様のデコは本当に広いな」

 白い指先で面白そうに藍色の髪をかきませながら覗き込んでイザークは笑う。

「デコデコ言うなよ!そんなに広くなんてないし。だいたい額が広いのは知能が高い証っていうくらいなんだからイザークよりは広くて当然だろ」

 さりげなく厭味をお返ししてやるとイザークはムッとして唇を尖らせる。
 そんな様子がかわいくて思わず噴出したアスランにイザークはもう一度その額を丸出しにした。

「もう、イザーク・・・っ!」

 再び文句を言おうとしたアスランは一瞬息を呑んで動きを止める。
 銀の髪がさらりと揺れたかと思うとイザークの顔が傾いた。

「でも、まぁこんなに広いと・・・」

 自分の額を撫でる手のひらが愛しいものを慈しむような優しさだとアスランは気づいた。そして見上げる視線の先でゆっくりとブルーアイが近づいてくる。

「―――キスする場所には困らないな」

 言うとイザークはその唇をアスランの額へと押し付けた。

 離れ際、楽しそうに笑っているイザークの首へアスランは腕を伸ばす。引き寄せる力に抵抗はなかった。

「そんな利点があるなんて知らなかった」

 笑って上半身を起こしながら唇を寄せるとゆっくりとサファイアの瞳がまぶたの下へと消えていく。

「なら覚えておくんだな」

 イザークは言って、そして二人はキスをする。
 口付けは甘く、柔らかく二人をつないだ。

「あ、膝枕・・・」

 抱き寄せた腕を背中へと回しながら未練がましくアスランがつぶやくとすぐ目の前でサファイアの瞳が瞬く。

「膝枕のほうがいいのか?」

 悪戯っぽく笑いながらイザークは繊細な指先でアスランの耳をつまみあげる。それに痛そうに顔をしかめながらアスランはあきらめたように呟いた。

「まぁいいか。また勝てばいいんだし」

 聞き捨てならないとばかりに睨みつけるイザークを今度はアスランが黙らせる。

 ―――うっとりと甘い、その口付けで。









fin.



2006/09/06
To 川波さん
Thanks 8888hits Request!






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