バタン、という音と共に信じられない人物の登場に俺は驚いて声を失った。
「きっさま〜っ」
二年ぶりくらいに会うというのに、声も、顔も、あきれて傍でため息をついてる同僚の存在すらあまりに変わらなくて、かわらなすぎてどう反応していいのかわからなかった。
「どういうことだ、アスラン!」
畳み掛けるように噛み付いてくる声に俺はようやく思い出した。
彼にとって自分はどういう人間だったのかということを。
「ちょっと待てって」
なんとか相手を押し止めて俺は言葉を探す。
切れてる彼なんて見慣れていたけれど、それでもやはり落ち着いてほしいと思いながら。
「イザーク」
そう俺は彼の名前をよんだ。
「で、貴様はプラントにいるのか」
事の顛末を大まかに話すと納得した様子でイザークは頷いた。
「まさか、状況がこんなに急に動くとは思ってもいなかったから・・・」
外出をするのに人が同行する事態になるとは思ってもいなかったうえに、それが旧知の、というより懐かしい仲間になるとは思いもしなかったのだ、と伝えると不満そうにイザークは腕を組みなおした。
「こっちは貴様と違って忙しいんだ」
隊長となって随分経つということはだいぶ前に聞いていたけれど、今日は白い軍服ではなく私服だった。彼といるときはいつも、アカデミーにしろ、ZAFTに入ってからにしろ制服かパイロットスーツ姿ばかり目にしていたからそれも何だか新鮮だ。
「そうそう、わざわざ前線から呼び戻されたっていうのにさぁ・・・」
相変わらず当然という顔をして彼の隣にいるディアッカも随分と背が伸びたらしい。まるで護衛役の護衛みたいで俺は場違いに笑いそうになった。
「なんだ、貴様っ」
それに気がついたイザークは見咎めて鋭く指摘する。
「いや、まさか君たちが護衛につくとは思ってもいなかったし、こうやってプラントに揃っていると緊迫した状況とは思えないな・・・って」
いつも戦況が緊張しているときは、最前線でMSを駆っていた自分たちがこうしてプラントにいるなんて、どうにもしっくりこない。
「それはこっちのセリフだ。全部隊への警戒が指示された直後に俺たちは呼び戻されて何事かと思えば・・・! アレックス・ディノとかいうオーブの客人の護衛だと? なにがアレックスだ」
それを指示した人物に思い当たって、わざわざアレックスの名で指定した意味を考える。もっともイザークたちを前にしたらそんなものには何の意味もないけれど。
「それは、まぁ、一応亡命していることになっているから・・・」
何を言っても無駄だろうと思いつつ説明すると、案の定イザークはドカドカと派手な靴音を立てて廊下に出て行く。
「知るか!」
その後姿を見ながら、一緒に部屋に入ってきたディアッカは、肩をすくめた。
「あれであいつなりにお前と会えて喜んでるんだぜ」
「あぁ、わかっているつもりだよ」
あのときユニウスセブンの破砕作業で通信越しに会話しただけで、ろくに連絡も取れないでいたことできっと心配をかけたんだろうと思う。まさかこんな形で再会することになるなんて思ってもいなかったからなし崩しにしてしまっていたけれど、本当はちゃんと説明をしたかった。できたら、イザークと二人でゆっくりと話が出来るような状況で。
俺はエレベーターホールで待っているイザークのあとを追いかけた。
「イザーク」
俺の声にイザークはイライラしながら振り返る。その眉間のしわがくっきりと見えて、俺はやっぱり笑ってしまった。
「君が護衛なら俺がホテルに戻るまでが君の仕事だろう?」
「当たり前のことを聞くな」
むっとしてイザークが言う。それに俺は自然と笑みがこぼれた。
「なら、少し君と二人で話ができないか?」
「二人で、だと?」
後からやってくるディアッカに視線を向けてイザークが聞き返してくる。
「そうだ、二人で。ディアッカには少し先に帰ってもらって・・・」
「頼まれなくても先に帰るぜ、オレは」
話が聞こえたらしいディアッカがそんな声をかけてきた。
「プラントまで戻って隊長のお守りなんてごめんだぜ。ちょっとは息抜きさせてもらうつもりだからな」
そんなことを言って思わせぶりな視線を俺に向けてくる。
「そんな勝手なこと俺は許可しないぞ」
カッとなってイザークが言うとディアッカはふふん、と頭の上で腕を組んで笑う。
「護衛対象の要望だったら、上司の許可より優先されるよな」
ちらり、と俺を見たディアッカに小さく苦笑した。イザークと一緒にいる時間が長い分、扱い方も理解しているということなのだろう。それを思うと俺は少しだけ悔しいな、とも思った。
「だそうだけど、イザーク?」
伺うようにしてみると、イザークは納得いかないながらも仕方がないな、というふうにしてふんぞり返った。
「勝手にしろ」
「で、どこに行きたいんだよ?」
エレベーターを降りながらディアッカが聞いてくる。
「これで買い物とか言ったら俺は許さんからな」
すかさずイザークが口を挟んで、相変わらずなコンビネーションに俺は苦笑しながらも感心する。きっとジュール隊はこれでうまくいっているんだろう。
「そんなんじゃないよ、ただ、ちょっと・・・ニコルたちの墓に・・・」
俺が言うと二人は神妙な顔つきになった。その名前には特別な意味があるのは3人に共通した絆のようなものだと思う。
「あまり来られないからな、プラントには・・・。だから行っておきたいと思ったんだ・・・ゆっくり時間のあるときに」
そう、俺はゆっくり話をすることもなかったのだ。
イザークともニコルとも、あの停戦の日からずっと。
ようやく、今日、話す時間が持てそうだ、と俺は思って先を行く二人の後を追いかけた―――。
fin.
06/1/28