冷たい蛍光灯の光にイザークは白い手のひらをかざした。
そこには確かに温もりがあったのに、もうそれすら忘れそうだった。
カーペンタリアで、アスランと握手を交わしたのはもうずいぶんと前になる。特務隊に昇進したというアスランが新型機を受領したその直後に行方をくらましたという情報を知ったときは信じられなかった。
「なんで・・・」
真っ白な天井を見上げながら、乾いた声が口をつく。
自分がオーブ沖の海中から目にした真紅の機体にアスランが乗っていたと知っていたなら、あの場でデュエルを駆ってあいつの横っ面を張り飛ばしてでも引き止めていただろうと思うと悔しさがこみ上げる。
自分はアスランの歯止めにはならなかった。
足つきの、ストライクのパイロットが幼馴染だということはカーペンタリアでアスランから聞いた。それを自分が殺してしまったと後悔の言葉を繰り返すアスランはひどく憔悴していて、会ったこともなくすでに死んでしまったアスランの親友という存在にイザークは醜い嫉妬の感情を抑えられなかった。
あのとき、自分は確かにアスランを抱きしめた。何を言ったらいいのかわからなかったけれど、気持ちは伝わったと思ったのに------。
「アスラン・・・!」
一人になったイザークはその名を口にする。目の前にいるときはろくに名前なんて呼ばなかったのに、どうしてこの名前はこんなにも自分を苦しくするのだろう。
居室のベッドの上で真紅の軍服のままイザークはシーツに包まった。
最後に握り締めた手のひらは暖かかった。自分が差し出した手にアスランは確かに返して握ってきた。あれはどういうつもりだったのだろう。
あのとき握り締めたのは、アスランの空っぽの心だったのだろうか。
「バカやろうっ!」
優秀なアスランは、特務隊で活躍するだろうと思っていた。悔しかったけれど、同時に嬉しくもあった。アスランの優秀さは誰よりイザーク自身が認めていたのだから。なのにそれを無碍にするどころか、脱走と新型機の強奪の罪まで犯したのだ、あいつは。
何を考えているのかわからない。
罪を償うために自分が殺した幼馴染の遺志を継ごうと足つきに合流したのだろうか。
ポロポロと白い頬に透明な涙が次々と伝い落ちる。悔しいのか悲しいのかイザークにはわからなかった。ただ、あのとき握り締めたアスランの手のひらの確かな温もりだけがイザークを苛むだけだ。
「死ぬんじゃないぞ、俺は貴様が死ぬなんて許さないからな」
一人の部屋でイザークはこの宇宙のどこかにいるアスランに向けて言う。今のイザークにはそれしか言うことができなかった。
ただとにかく生きていて欲しい、そう願いながら----。
fin.
06/05/17
アスイザ好きさんに28のお題
NO.11 「手のひら」