アスランが課題を提出しようとすれば、イザークがそれを制して先に出す。
アスランがトレーニングをしに行けば、戻ってきたばかりのイザークもまたトレーニングルームに向かう。
アスランが食事でAランチを選べばイザークはBランチを選ぶ。
イザークの言動のすべては、アスランに負けてなるものか、ということだけが基準だった。
「疲れませんか、アスラン」
寮の廊下を歩いているとニコルが訊いてきた。訊いているほうがうんざりという口調だ。
「別に・・・、俺は自分のペースでやってるだけだから。疲れるならイザークの方だろう」
いちいちライバル心をむき出しにして、つっかかられるのは確かに面倒ではあるが、それもすぐに慣れてしまった。イザークが勝手にやっているだけのことで、自分には関係ないと思えばそれほどの問題でもない。
アスランは達観して、ぎゃんぎゃんと喚くイザークを歯牙にもかけずに日々淡々と振舞っている。
「アスランが気にしないというのならいいんですけど、ちょっと異常ですよね、あれは」
「まぁ、あまりいないタイプだとは思うけどな」
さっきの護身術の授業でも、アスランが3人を相手にしていたらイザークは5人目を探していた。相手の人数が成績に関係するわけでもないのに。
「あ、着替えのシャツ忘れちゃったので、アスランは先にシャワー行っちゃってください」
汗をかいたためにシャワールームに向かっていたのだがニコルはそう言って寮の部屋に戻っていく。
一人になったアスランはそのままシャワールームへ向かった。
脱衣所でトレーニングウエアを脱いでブースに向かう。まだ時間が早いからか誰もそこにはいなかった。
頭から温水を浴び、ボディソープを泡立てて体を洗う。ザァザァと水音がする中で誰かが入ってきた気配がした。
「そこにいるのはアスランか」
名前を呼ばれたアスランはコックをひねって温水を止めた。いちいちアスランの所在を確認する相手はただ一人だけだ。
「そうだけど・・・」
あぁ、きっとイザークはここでもまた同じなんだろうな、と思いながら気配を探るとどうやら彼もシャワーを浴びるらしい。だが、せっかちな性格どおりにガタンバタンとあわただしい音がする。
「イザーク、シャワーくらいゆっくり浴びたらどうなんだ?」
声をかけてみれば、返事は激しい水音の合間からだった。
「うるさいっ、軍人たるもの何事もすばやくしないでどうする」
なんだかこっちのほうが落ち着かない、と思わせるほどイザークのブースからは全速力で体を洗う様子が伺えた。
そしてアスランが体を流していると、バタン、と音がしてイザークがブースからでる音がする。やっぱりアスランより先に上がってやるということのようだ。
それに構わずにアスランが自分のペースでシャワーを浴びてブースを出ると、すでにアンダーウエアを身に着けたイザークがこちらを得意そうにみている。
「ふん、どこの女の長湯かと思ったぞ」
その言い方にため息をつきながら、アスランはあきれたような顔をしてイザークをみる。
「早ければいいってものでもないだろ、だいたいシャワーの時間が早いからって成績に関係ないのに」
「うるさいっ、俺が貴様よりどんなことでも勝てるってのが大事なんだ」
また勝ち負けか、とうんざりしかけたアスランは、ふと思いついてイザークに歩み寄った。
そしてそのままイザークを壁に押さえつけて、その唇を強引に塞ぐ。ねっとりと舌を絡めてやると途端にイザークが膝から落ちる。
驚いて目を見開いたイザークはあわててアスランを突き飛ばした。
「貴様・・・っ!」
「イザークはキスで俺には勝てないだろ?」
からかうように翡翠の瞳に笑みを浮かべると、たじろいでイザークが顔を上げた。
「勝負の続きは、ベッドでする?」
スパッツの中でイザークが反応しているのをちらりと見やってアスランは言う。それにイザークの頬は真っ赤になった。
「き、き、貴様・・・」
すっかり動揺したイザークは逃げ出すように制服を着ると、シャワールームを飛び出していく。
「まったく・・・、だからかわいいんだよ」
一人になったアスランはそう言って口の端をあげて笑った。
イザークの敵対意識は、絶対に敵わないとわかっているからあそこまで悪化してるのだ、とアスランは知っていた。だからどんなに騒いでも放っておくのだ。
「だって、君は俺のものだからね」
fin.
2006/4/24
アスイザ好きさんに28のお題
NO.1 「敵対意識」