横 顔

 雑誌を読んでいるディアッカの横顔。
 視線を落としている睫毛の淡い金色や、高くすっきりとした鼻梁。
 見慣れているはずの顔なのに、何故か視線が釘付けになる。
「どしたの?」
 気がついてこちらを向いた顔はいつものまま。
 紫水晶の瞳が細められる。
「いや、別に」
 止めていた手を戻し、何もなかった振りをしてみても。
 早まる鼓動は内側から俺を追い詰める。
 すぐ隣に座っていることなんていつもの通りで、特別なことじゃない。
 なのに。
 ふと見た横顔が酷く魅力的に思えて。
 これが、自分の横にいる人間なんだと思ったら、何故だか。
 体中の温度が上がってくるのがわかった。
 ページを繰る指先が骨ばって長いことも。
 その先の爪はいつもきれいに手入れされていることも。
 ささいなことなのに、いちいち目に入って。
 これ以上は平静を装う限界だ、と慌てて目を閉じた。

「イザーク?」
 呼ぶ声が頭の中に響く。
 返事をしようと思うのに、喉が狭窄していて裏返ってしまいそうで。
「イザ?」
 短く、呼ぶ、二人だけの呼び名。
 声が出ないから、視線だけを向けると長い睫毛がすぐそこにあった。
「どしたの?変だよ、さっきから」
 言いながら、膝の上にあった雑誌を脇に追いやって。
 長い腕が伸びてくる。
「何デモない・・・」
 否定した声が上手くでなくて、ディアッカが笑ったのがわかった。
「そう」
 気づかない顔をしながら、その目が甘く瞬いた。
 俺を抱きしめる腕が引き寄せるように曲げられる。
 柔らかい金髪のクセ毛が頬に、触れた。
「邪魔だ、どけ」
 本を読むのだから、と主張してみても笑ってそれを流される。
「さっきからページ、全然進んでないでしょ」
 お見通しだと笑う顔がずるいと思う。
「お前が邪魔してるからだ」
 無茶苦茶だ、とわかっていてもそんな言葉が口をつく。
「邪魔なんてしてないよ」
 俺の手から本を取り上げて、ソファの上にそっと置く。
 それに抵抗しないと見越した上で。
「邪魔っていうのはこういうことでしょ」
 笑って体を押し倒した。
「バカ」
 それしか言えないのが情けないのに。
 降って来るキスを黙ったまま受け入れて。
 まるで待っていたみたいだと自己嫌悪に染まりそうになる寸前に。
 深い口付けに思考が流される。
「ディアッカ・・・」
 呼んだ声が遠く聞こえる。
「なに?」
 答える声はひどく近い。
 吐息が耳に掛かって体温が上がるのがわかる。
「お前の横顔・・・好きだぞ」
 その返答は言葉じゃなく、柔らかな笑みで。
 俺は目蓋をそっと閉じた。





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