まっすぐ 

 凛とした背中が、遠く、見える。


 手を伸ばせば届く距離にいながら、ときおりそんなことを感じる。

 それはきっと、イザークがまっすぐ前を向いているからだと思う。
 最初から印象が変わらない、彼の、潔い生き方は戦争を通しても同じだった。
 
 きっとぐらつくことだってあったはずだ。

 自分がいたときには見ることはなかったけど彼が一人残ってから、自分やアスランの行動を知って、いろいろと考えることはあったはずで、それが彼を不安定にしたのかもしれないと思う。

 でも、それでも、彼はまっすぐに進み続けた。自分を正当化するための言い訳なんてすることなく、茨とわかっていてもただひたすら、まっすぐに。

 だから、イザークは美しい。

 戸惑いも迷いも、全てを心の内側にしまいこんで。

 率いる者ができてからはそれすら自分に背負わせて、全てを守る、ただそのことだけを突きつめるように、視線をさげることなく。

 まっすぐに、彼は歩んでいく。


 だけど、それがときどき寂しく思える。

 イザークが自分の手を必要としない日が来るのじゃないかと。
 ここまで彼を孤高にしたのは、自分の一時期の離反のせいじゃないだろうかと。

 支えているつもりが支えられている気さえして、オレの存在すら背負っているんじゃないかと思って、その背中を遠く感じる。




「イザーク」

 呼ぶ声に、疑問も持たずに振り返る顔が穏やかで、知らずに安堵の息をつく。

「髪、伸びたんじゃない?」

 ごまかすように関係のないことを言うと、確かめるように毛先をつまんで確かめた。

「そうか?」

 銀色の、蛍光灯に透ける髪まで見事にまっすぐで、まるで彼にはそれ以外の在り方を許さない枷のように見えて、知らずに苦く笑ってしまう。

「どうした?」

 不思議そうな顔をしているイザークに、近寄って抱きしめる。

「イザークはまっすぐな人だね」

「ディアッカ?」

 時々、そんなことを思って後ろを向きそうになるオレを、こうして抱きしめるイザークのまっすぐな体で矯正してるのかな、なんてくだらない理屈が頭を掠めて、また小さく笑う。

「だから、好きなのかな」

 ぼそり、と言った言葉にイザークはオレの髪を白い指先に絡め取って笑う。

「くだらないことを言う暇があるなら、仕事しろ」

 くだらなくなんかないよ。イザークのことはオレの全てだから。

 まっすぐ進んでいく彼にいつまでもついていくために。

 まっすぐ、まっすぐ進んでいけるように。

 ぎゅっと、イザークを抱きしめなおした。