手触り
やわらかいんだ。
ディアッカは、自分のクセ毛を好きじゃないらしい。
いつだったか、フワフワしてるな、と言ったらそれが嫌いなんだ、と。
あの前髪を上げたスタイルだって、ディアッカに言わせれば苦肉の策ということらしい。下手に短く切ってしまうとクルクルとなってしまうから、長くして、その重さと整髪料で見られるようにしているんだと。
「イザーク、オレの髪いじるの好きだよね」
枕の上。
すぐ隣にある下ろされた前髪を指先で遊んでいたら、嬉しそうな顔をしてディアッカがそんなことを言った。
「お前だって、俺の髪を撫でるだろうが」
ときに強請るように、ときに宥めるように。ディアッカは俺の髪を通していろんなことを伝えてくる。
「だって、サラサラしてて気持ちいいから」
そう言って、顔をうずめるように抱きついてくる。
「やめろ、コラ、ディアッカ」
「いいじゃん、ケチ」
さっきまで訓練で疲れたと言ってたのに、コイツときたら、体力は化け物か。
でも、そのフワフワの洗いざらしの金髪が柔らかく頬に触れて、くすぐったくなると同時に仕方がないな、と、指先にクセ毛を絡め取る。
やわらかい、ふわふわの髪の毛と、求めるような甘いキスに、ディアッカは柔らかいんだ、と俺は思う。
「お前の手触りは悪くないな」
「なにそれ、犬の毛並みじゃないんだから」
言い方が気に入らなかったらしいディアッカは、ぐっと俺の手首を掴まえて、覆うようにかぶさった。
「するのか・・・?」
「いや?」
「別に嫌じゃない・・・」
「そう、よかった」
言うと同時に唇を塞ごうとするディアッカを、無理やり引き剥がしてやると、不満そうなムラサキの瞳と目が合った。
「もう少し、髪の毛さわらせろ」
言ってみたら意外そうに目を開いて、それからにっこりと笑った。
「好きなだけ触ってていいよ。手が届く範囲にいるから」
言い終わらないうちにディアッカの唇がイタズラをし始める。
かき混ぜる指がしがみつくものに変わり、押さえつける掌に変わる。
「お前は・・・」
柔らかいんだ、きっと。
髪の手触りも、触れてくる指先も。
その全てを告げるより先に、何より柔らかい唇が甘く、うっとりと落とされる。
ディアッカはやわらかい。
指先にかすかに触れるクセ毛のように。
その存在が柔らかく俺にしみこんでくる・・・。