制服を脱いで無造作にそれを投げ捨てる。
それはいつになっても変わらない習慣だ。
アカデミーの寮や、士官になってからの二人部屋ではそれはベッドの上に放り投げられていた。
投げ捨てる制服が白いものに変わってからは、少し広くなった居室のソファの上に同じことが続けられている。
変わらないそれを換わらずに見ている自分。
揃えるのも面倒な様子で、黒いブーツがソファの脇に投げられた。
窮屈なそれから解放されてイザークはスラックスも勢いよく脱ぎ捨てると、アンダー姿になって裸足で床を蹴って擬似重力の空間に上がった。
ふわり、と銀色の髪が空に舞う。
襟足にそれが降りる前に腕を伸ばして白い手首を掴まえた。
「ディアッカ?」
引き寄せられるままに腕の中に降りてきながら、イザークは不思議そうに覗き込む。
それには答えずにただ、背中からぎゅっと抱きしめる。
そして床を蹴って空中に漂った。
「イザーク、ずっとずっとオレの傍にいてね」
肩に鼻先をうずめて言う。
「何を今さら・・・」
くるり、と抱きしめられたまま低重力の空間で細い体が回転する。向き合うように態勢を変えて、青い瞳で睨むように見上げてくる。
「だって・・・」
いつ死ぬかわかんないじゃん。
ときどき忘れそうになる現実。ふと思い出すと怖くなる。当たり前のことすらできなくなるということを。
目の前にいる人がいついなくなってもおかしくないんだと。
「弱気なやつはジュール隊には必要ない」
口癖のように言うセリフ。
「でもオレにはイザークが必要だから」
ぎゅっと折れるほど強く。
抱きしめて確かめる。ぬくもりと力強さ。
するとイザークの瞳が閉じられて、その唇が押し付けられた。
「ジュール隊には必要ないが・・・お前は俺には必要だ」
唇の端を上げて、笑う。
その顔は強気でとってもきれいで。
「ずるいな、それ」
オレは笑って抱きしめた。
銀色の髪ごとかき抱いて、大切だと伝えるように。
「イザァ・・・ク」
ささやくように呼ぶと、腕の中、ふわりと顔が和らいだ。
「なんだ?」
「好きだよ」
覗きこんで言うと、ふん、と得意の顔で笑ってみせる。
「そんなの知ってる」
その顔に負けそうになりながら、口付けを返すと。
甘えるように腕がのび、そっと抱きしめてきた。
ずっとずっと傍にいたい。
その想いは同じだと。
伝えてくれる存在のありがたさに感謝しながら。
祈るように、その空間に漂い続けた。
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