宝石
 

「あったかいなぁ・・・」
 芝生の上に寝転んだディアッカはつぶやいた。
「あぁ・・・」
 それに対するイザークの返事は生返事で。手にした本に夢中になっている。
 本の虫とはよく言ったもので、せっかくの晴天、せっかくの休暇だというのにイザークはさっきからページを追ってばかりで景色なんてまるで見ていない。もちろん、隣のディアッカもことも。
「・・・・」
 いい天気だから出かけようと、部屋で読書をしたがったイザークを無理やり引っ張り出してはみたものの、結局公園の芝生に座ったきりになっていた。
 ディアッカも最初こそは付き合って雑誌を広げていたりはしたけれどすぐに放り出し、ごろごろとし始めたのだが、それにもすぐに飽きてしまった。何よりイザークが自分の相手をしてくれないのがつまらない。
 恨めしそうにイザークの持つ本の表紙をにらんでみるが、それで相手が退散するわけもなく。
 ため息をひとつついて、芝生の上に両手で頬杖をついてみた。
 見上げるのは、光に透けるさらさらの銀の髪。夢中になって文字を追う目は伏せがちで長いまつげが太陽光を映しとっている。
 その下に見え隠れする瞳は、ときに冷たくさえ見える宝石のようなアイスブルーで、影のさす部分は深い海を思わせるダークブルーだ。
 陶器のような白い肌は、人工物かと思うくらいにつややかで、そこには色素があるんだろうかと思うほど、日焼けには縁がなさそうだった。
 閉じられた口元は薄く、けれども上品な桜色が差している。
「美人、だよな・・・」
 ぼそり、とつぶやいたディアッカの言葉に、意外にもイザークが反応した。
「誰がだ?」
 見れば、きりのいいところだったのか、手を止めてディアッカを見下ろしている。
「さぁ、誰でしょー」
 起き上がりながら楽しげにイザークの顔を覗き込む。
「気になる?」
「ならん」
「あっそう」
 あっけないやり取りに気が抜けたようにイザークが再び本を広げようとしたが、寸前でそれをディアッカが取り上げる。
「あ、何するんだ、こらっ!」
「それはオレの台詞だよ。せっかくの休みに外に出たのに、本ばっかり読んでイザークこそ何すんだよって?」
 そういって責めると、さすがに後ろめたいのかあきらめて手を引いた。
「じゃぁお前は何がしたいんだ?」
 まじめに聞かれてしまうとそれもまた困るのだが、ディアッカはイザークを押し倒した。
「な、ばかっ」
「たまには、ごろごろするのもいーじゃん」
「・・・何もしないだろうな」
 横を向いて金髪の少年を確かめる。
「したいのはやまやまだけど。さすがにここじゃね」
 それを聞いて安心したのかイザークも力を抜いて、頭の下に腕を組むと空を見上げた。
 ディアッカも同じようにして目を閉じる。
 静かな時間が流れる。
 イザークは不思議な気分だった。ディアッカが隣にいるのは珍しいことではないし、むしろいないことの方が少ないくらいなのだが、よくよく考えると二人とも黙って何もしないという状況はあまりない。
 なんだか心地がいいのか悪いのかわからなくてつい隣に視線を移すと、そこには気持ちのよさそうな顔をしているディアッカの
 金の髪が人工の太陽光にきらめいていた。無造作にワックスで整えた髪はところどころで跳ねていて彼の性格を表しているように思わせる。
 意志の強さを感じさせる整った眉に、きっちりとした鼻筋。閉じられた瞼の下には、紫水晶を埋め込んだような甘い瞳がある。
 皮肉っぽい笑みを浮かべる口は無防備に結ばれていて、その頬は引き締まった褐色の肌だ。顎から喉へかけてのラインは少年というよりも すでに青年としての兆しが見えていて、イザークはそれにどきりとした。ディアッカが女にモテるというのも納得できる気がした。
 今まではそんなに気にしたこともなかったが、こう見るにやはりハンサムなんだろう。
「ん、どした?」
 うとうとと眠りに引き込まれそうになったディアッカがイザークの視線に気がついてか聞いてきた。
「いや、いいものを見つけたんだ」
「えー、何だよそれ?」
 そのイザークの笑顔があまりにも魅惑的でディアッカは身を乗り出してきた。
「お前には教えてやらん」
「ちぇっ、ケチー」
 けれど、そういうディアッカもどこか満足そうだった。
 太陽の光の下、気がついた身近な宝石の存在。
 それを独占している幸せをかみしめながら、でもお互いには内緒で。
 ただ二人は並んで空を眺め続けた------。 



END

2005/3/9





あとがき
結局、バカップルな二人。
いつものことだけど。
ほのぼのを目指したSSです。
平和な感じが割りと気に入ってます

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