「なぁ、『恋』ってどういうものなんだ?」
情事を終えて、うとうとと眠りに就きそうになっていたディアッカに唐突にイザークは言い出した。
「はぁ? 突然何だよ、それ・・・」
腕枕のようにしてその体を抱き寄せながら、ディアッカは恋人の顔を覗き込んだ。
そこには思い切り真剣な表情が浮かんでいる。
「部下に聞かれたんだ。『隊長は恋なんてするんですか』とな。
俺はそういうのわからないから答えられなくて・・・。だから、お前なら分るかと思って・・・」
あああ、誰だよ、そんな余計なことを吹き込んだバカモノは。純粋培養のお姫様がどうしたら、恋ができるなんて話になるんだって!
頭を抱えたくなるディアッカの目の前で、イザークの瞳は答えを期待している。
その頬に口付けをすると、ディアッカはどう答えたらいいものかと考えながら言葉を探し出した。
「そーだな。恋は奪い合うもの、愛は与え合うものって言葉があるらしいけど・・・」
とりあえず、昔どこかで聞いた話を持ち出した。
女の扱いには百戦錬磨のディアッカだったが、恋愛談義が得意かというと決してそういうわけではない。
むしろ、そういう定義を超越したところで自分は好き勝手に楽しんでいたような気がする。
「奪うもの?なんだそれは」
案の定、イザークからは納得いかないという答えが返ってくる。
「ええとだから、恋は下心って言うか・・・」
「下心?!」
お姫様には受け入れられない方向にいきそうになってディアッカは慌てて修正する。
「じゃなくて、その、恋っていうのは一方的な思い、なんだと思うんだ」
「一方的って、何かを思うのは一方的なものじゃないのか?」
理屈屋のコイビトを納得させるのは一筋縄ではいかない。それはいつものことだが、この手の話をする羽目になるとは思ったこともなかったので、ディアッカは困り果てた。
「たとえば・・・、きれいな瞳にどきどきするとか、声を聞けるだけで嬉しいとか・・・そういうことを思ってるのはその人間が勝手に一人で思ってるだけだから、ある意味で一方的な思いなわけでしょ?」
言いながらディアッカはイザークの唇を吸い寄せた。
「でも愛っていうのは恋とは違うんだよね。親子の愛とか友愛とかって言うだろ? それってお互いが相手のことを考えてるって前提の基に成り立つだろ?」
分ったような分らないような顔をしてイザークはディアッカを覗き込んでいる。
「じゃあ、お前は恋ってしたことあるのか?」
負けず嫌いな彼らしい、自分と相手を比較するセリフ。それは自分が恋できないのに、オレがしていたら悔しいからっていう、きっとそんな理由だろう。
それにディアッカは笑いながら言葉を続ける。
「そーだな・・・その人の笑顔を見られただけで嬉しいとか、姿が見えないと寂しいとか、自分に向かって何かを言ってくれたことに喜びを感じるとか・・・自分のせいで傷つけたんじゃないかと心配になったりとか、ずっと一緒にいられたらと思ったりとか・・・離れたくないと思ったりとか・・・」
言いながら微笑が深く甘いものになる。イザークはそれにどきりとしながら瞬きをしていた。
語りながらディアッカは気がついた。自分はいつもこの人に恋しているんだ、と。意識することもなく、あたりまえになってはいるけれど、この思いは間違いなく『恋』なのだ。
「そーいう恋なら、今でもずっとしてる、かな」
ディアッカの意図することに気がついたイザークはどきどきしそうな自分を抑えて反撃に転じた。
「それだったら、俺だってしてるぞ!」
それを聞いたディアッカは楽しそうに聞き返す。
「へぇぇ、誰に?」
聞き返されたイザークの頬は一瞬で真っ赤に染まっている。語るに落ちた、とはこのことだ。
慌てふためいても後の祭。今更取り消しなんてできやしない。
「ど、どっかの金髪の副官だろっ!」
とたんに、ディアッカの表情はゆるゆると崩れ落ちる。
ああ、まったく、かわいくて仕方がないったら。オレだけのお姫様は。
「そっか、そいつはシアワセだな」
からかいながら銀の髪に口付ける。その腕の中でそれに酔うようにすべてを預けながらイザークはいつもの口調で言う。
「当たり前だ・・・俺に思われるなんて贅沢極まりないんだからな!」
「じゃぁそいつに伝えておくよ。姫は大事にしてやれって」
「なんだ、その姫っていうのは!」
言い方に文句を言う。けれど、それとは裏腹にイザークは自分からディアッカにキスを見舞った。
「ついでもこれも渡しておいてくれ」
「りょーかい・・・じゃあこれはそいつからのお返しだって・・・」
細い体をきつく抱きしめながら、ディアッカはその何倍ものキスをイザークへ降らせるのだった・・・。
END
2005/2/26
あとがき
第二弾の最初に書いたSS。
シチュエーションがわりとすぐに浮かんだ作品。
イザークのバカっぽさが好きです(笑)
続編で「恋してる宣言」のイザークを!というリクエストも頂きました。
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第二弾の最初に書いたSS。
シチュエーションがわりとすぐに浮かんだ作品。
イザークのバカっぽさが好きです(笑)
続編で「恋してる宣言」のイザークを!というリクエストも頂きました。
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