畳の上で


「くっそう!」
 何度目かの勝負の負けが確定してイザークが悔しそうに床に脚を投げ出した。
 古風なタタミの部屋。
「はぁ・・・」
 ディアッカは軽くため息をついた。
 イザークから離れたところには、扇と的、その台がある。 
「だからー、力いれてもダメなんだって」
 言ったところでイザークが聞くわけはないが、一応忠告はしてみる。
 だまっていればいたで、どうして教えないんだなどと怒り出すのだから。
 二人が勝負していた、というかイザークが勝負を挑んできたのは投扇興という日本古代の遊びである。


 最初のうちはイザークに教えるために、適当に投げていたディアッカに調子に乗ったイザークが勝負を挑んできた。
 手を抜いてイザークよりもあからさまに下手というのは許されるはずもなく、かといってその性質上適度に手を抜くというのはそれもまた至難の業で。
 だいたいディアッカであっても何度かやったことがあるという程度で、それに扇には慣れ親しんでいるくらいのアドバンテージがあるだけだから、結果的に、イザークは負け続けということになったのだった。
「別に、力入れてるわけじゃないっ!」
 その言い方が十分力はいってるんだけど、とは口には出さずにディアッカは落ちた扇を拾うと、イザークの脇からつい、と投げてみせた。
 それはきれいな斜線を描いて、本来の的のある位置を飛んでいく。
「なっ?」
 振り向いた顔は悔しさに溢れていて、ディアッカはそれをまたかわいいと思ってしまう自分にもあきれ果てた。
「教えろっ」
 むちゃくちゃなことをイザークは言う。
「教えてるって、さっきから・・・」
それなのに、うまくできないのは別にディアッカのせいではないというのに。
「どーすればいいのかちゃんと教えろっ」
 睨むようにしているイザークにはなんといったらいいのやら。
「だから教えられることは教えてるって・・・」
 言ってもイザークは聞いてはくれない。
「なんて言えばいいのかなー」
 困り果てたディアッカはつぶやいた。
「お前はどういうふうに投げてるんだ?」
イザークの問いかけにディアッカはしばらく考えてからにこりとして答えた。
「オレ? オレはイザークの唇を奪うつもりで」
「なっ」
 予想通りの反応にディアッカはくすり、と笑う。
「力を入れすぎず、抜きすぎず、優しく、そっと、丁寧に」
 言いながらディアッカは畳の上を横滑りしてイザークの隣に座り込んだ。
 そして再び同じセリフを繰り返す。
 
「力を入れすぎず」
 言って唇を指でなぞる。
「抜きすぎず」
 顎をしっかりと掴まえて。
「優しく」
 言われたイザークの瞳がそっと閉じられた。
「そっと・・・?」
 聞いてきたのはイザーク。
「ん。丁寧に、な」
 畳の上、投げ出した両脚でイザークの体をしっかりと引き寄せながら。
 ディアッカはその腕の中のコイビトに甘い口付けの雨を浴びせた。
 




END





2005/2/13






あとがき





なぜか突然投扇興を思い出して、書いた作品。
(特にやったことがあるわけではないのですが)
SSの神様が降臨していたタイミングだったので
さくさく書きました。その分中身もないですが(汗
結局イチャイチャしてるだけの二人です・・・
ちなみに投扇興はどんなものかは こちらで写真が見られます。