忠誠のキス



「似合うよ・・・」
 目の前で白い軍服に袖を通したイザークは眩しいくらいにディアッカには見えた。
「なんだか、落ち着かないな」
 鏡の前に立って自らの姿を見ているイザークは照れたようにそう感想を述べる。
「そう? 赤はイザークの性格を現してるみたいで、あれはあれで似合ってたけど、白はイザークの外見によくあってるよ。白い肌が引き立つし」
 銀の髪に白い肌、そして白い軍服となれば、その制服はイザークのためにしつらえたようにすら見えるから不思議だ。そして膨張色であるはずの白を着ても、イザークの細さは逆に強調されるようだった。
「で、お前は着ないのか?」
 一通り自分を確認し終わるとイザークはディアッカを促す。
「オレ? オレはべつにいいじゃん。昇進したわけじゃないんだし」
 新調されて届けられた軍服がビニル袋に入れられて手元のデスクの上にある。その色は見慣れない緑だった。
「そんなこと言って俺だけ着せ替え人形みたいなことさせるつもりか?」
 そうイザークに言われてしまえば、ディアッカが着ないわけにはいかない。もっとも、いくらここで遠慮したとしても、同じ隊になった以上いずれはこれを着た姿をみられてしまうわけだが。
 しぶしぶといった顔でまだ新しく張りのある生地を身にまとう。そんなディアッカを横から眺めながら、イザークはふと違和感を覚えた。
「お前、でかくなったか?」
 大戦中に同室だったときはさほど変わらなかったはずなのに、なんだかディアッカが大きく見えたのだ。
「まぁ少しは。成長期だし」
 そう答えて制服を纏い、隣に立ったディアッカは確かにイザークより背が高かった。上着の裾の短さが余計にその姿をスラリと感じさせる。
「・・・」
「感想は何もないわけ?」
 黙ってしまったイザークに促してみるが、ムッとした表情で見つめられるだけだ。
「気に入らない」
 ぽつり、と漏らされた意外な感想にディアッカは顔をしかめる。
「なにそれ」
 褒められることはないにしろ、そこまで言われると思ってもいなかったディアッカはさすがに傷ついた顔をする。
「いくら緑だからって、何もそこまで言わなくったって」
「お前は何でも似合いすぎだ。俺がなんで短い裾がいいなんて感じなきゃならないんだ」
「は?」
 訳のわからない文句に混乱したディアッカは自分の軍服の裾をイザークの軍服と見比べた。長く膝まで覆う白い上着は、赤服と同じエリートだけが許されるデザインだ。それをなびかせて歩く姿はさぞ凛々しいんだろうなと思うのに、イザークはこの緑の短い裾がいいというのだから、意味がわからなかった。
「何言ってんの?」
「お前がそれを着て隣に並んだら、視覚の作用で俺が確実に小さく見える。そうじゃなくてもお前に背を抜かされたっていうのに、だ」
 その言葉を聞いて、ディアッカは吹き出した。それをイザークが睨みつける。
 ときどき、イザークの負けず嫌いは妙に子供っぽい次元で発揮されるのだが、今回もどうやらそういうことらしい。
「じゃ、オレはイザークの隣には立てないね」
 からかうように紫の目で覗き込むと、イザークはふん、と顔を背けて膨れてみせた。
「バカ言うな。お前以外の誰が俺の隣に立つって言うんだ」
 ほんのりと赤く耳を染めたセリフにディアッカは小さく微笑むと、白い手を引いて上官であるその人を抱き寄せる。
「あのイザーク・ジュール隊長にそんなこと言われるなんて、オレって世界一の幸せ者かも」
「かも、じゃなくて幸せモノだ」
 きっぱりと言い切る声の自信に目を細めるとディアッカはそっと顎を持ち上げる。
「では、隊長に忠誠の証を」
 ゆっくりと顔を近づけると淡い銀の睫毛が伏せられる。それにあわせて紫の瞳も伏せられた。
 そして----。
 甘い口付けが二人をそっと繋いだ。




END

2005/9/12