いつもと同じようにバスターに乗った。
いつもと同じように、カタパルトに出る前にイザークと会話して。
いつもと同じように敵を捉えた・・・。
でも、いつもと同じように帰還することは出来なくて。
連合にもZAFTにも属さないただの兵士になった。
アークエンジェルの休憩室で、誰もいないのをいいことにディアッカはソファに横になった。
目を閉じてそっと息をつく。
「まだ、大丈夫・・・」
ZAFTを離れて以来、人の記憶がどれほどあいまいなものなのか、思い知らされるようだった。
いつも一緒にいるのが当たり前だったから、ディアッカはイザークのものを何ももっていなかった。そんなものを持っている必要なんてなかったっていうことだけど。離れてから気がついた。写真の一枚でも持っていればよかったな、と。
何日も会わないことなんて今までなかったから。イザークの顔をいつまで覚えていられるのだろうか、と不安になった。
一日何度も目を閉じて、瞼の裏に思い出す。銀の髪に青い瞳、白い肌に薄い唇。記憶を何度もなぞるようにして、深く強く刻みつけながら。忘れていないことに安堵しながら、今度は声を忘れてしまうんじゃないだろうかと、必死に思い出してみる。
そんなことを繰り返せるうちは良かったけれど。
捕虜でなくなって、戦闘に出るようになってから、そんなことを何度もしてる暇もなくて。
ときどき、こうして自分のメモリーを呼び起こす。他のどんなことを忘れてもイザークの事だけは忘れたくないから。
声と姿、どちらを先に忘れるのだろう。
どちらも忘れる前にもう一度逢いたいとディアッカは強く祈った。
いつもと同じように、ブリーフィングをして。
いつもと同じようにデュエルに乗った。
いつもと同じように、カタパルトに出る前にディアッカと会話して。
いつもと同じように敵を捉えた・・・。
でも、いつもと同じように帰還したのは自分だけで。
クルーゼ隊のパイロットは自分ひとりになった。
母艦の自室に戻るとイザークはベッドに倒れ込んだ。その場所はディアッカの寝る場所。
シーツを握り締めて、深く息をつく。
「おまえの匂いがしない・・・」
ディアッカが戻らないとわかって、一人で自室に戻ったイザークは、その部屋の匂いに気がついた。
それはいつもそばにいたディアッカの匂い。
記憶の中のディアッカは香水の類を何も身につけてはいなかった。けれど、部屋に戻るといつも彼の匂いが感じられた。
いつも自分を抱きしめた匂い。
MIA扱いになって、荷物を整理することになっても、その寝具だけには手をつけなかった。クリーニングにも出さないでずっといなくなったときのまま。
部屋に帰るたびにそのシーツに包まっていたら、いつの間にかそのシーツにはイザークの匂いだけが残っていた。それでも、シーツに身を包む。彼の匂いを忘れないように、記憶を呼び覚ましながら。掠れていく記憶に不安を覚えながら、今度はディアッカの温もりを必死に思い出す。
自分を抱いた腕のたくましさと、包み込む温かな体温。
自分よりずっと高いそれはまるで子供のようで、無邪気なあいつには相応だった、と。
ときどき、こうして何も考えずにディアッカのベッドで眠り込む。自分の感覚を研ぎ澄ますように。他のどんなことを忘れても、この部屋で過ごしたディアッカとの事は忘れたくないから。
この部屋からあいつの存在が消え去る前に、戦争を終わらせてやる、とイザークは強く誓った。
END
2005/6/9
ある本を読んで「いつまで覚えていられるんだろう」というフレーズから
考えた話です。
ディアだけのモノローグにするはずが短くなったので
二人を対照的に書いてみました。
イザークは抱かれてた匂いに反応してほしいなと思って(笑)
考えた話です。
ディアだけのモノローグにするはずが短くなったので
二人を対照的に書いてみました。
イザークは抱かれてた匂いに反応してほしいなと思って(笑)