キミの寝顔に

 目が覚めると窓から柔らかな日差しが差し込んでいた。
 作り物の太陽とわかってはいても、その暖かさは人をほっとさせる力を持っている。
 ディアッカは自分の左腕が感覚をなくしているのに気がついた。
 夕べ、イザークを抱きしめたそのままで眠ってしまったのだ。
 その腕は腕枕としてずっとイザークの下敷きになっていたらしい。見事に痺れて感覚がない。
 それに苦笑しながらイザークを起こさないようにゆっくりと腕を引き抜く。
「っ」
 さすがにひどい痺れ方で思わず顔をしかめた。
 だが、イザークはまったく気がつかずに眠っている。
 それにほっとすると、ディアッカは痺れた腕をかばいながらベッドの上に身を起こした。

 自分の脇では、シーツに包まるようにしてイザークが穏やかな寝顔を見せている。
 険しい表情の多い昼間の顔をはまるで違うその顔は、ほとんど女にしか見えない。
 いくら慣れたとはいっても、はっとするような美しさにディアッカは何度も息を呑む。
 美しいものと儚さは切っても切れないようにディアッカは思う。
 さして根拠があるわけではないが、繊細なつくりの芸術品にしろ、きれいな花にしろ、
 守ってやらなければあっけなくその姿をなくしてしまうものは際立って美しいと思うのだ。
 だがイザークはそれに当てはまらない、今のところは。
 彼は身体能力では他人に劣ることはないし、その精神力も恐ろしく強い。
 パイロットとしての能力も隊長としての指揮能力も一流だ。
 はかない、という単語とはまるきり縁が無いように思える。
 けれど、こうして無防備に自分に見せる寝顔は、触れたら消えてしまいそうなほどキレイで、
 この存在が消えてしまうのではないかとを思って心配になってしまう。
 それと同時に、自分にだけはそんな顔を見せてくれることに幸せを感じるているのもまた事実だった。

 ふわり、と光を反射する銀の髪に手を伸ばす。
 さらさらとして柔らかくすべるような手触りだ。
 髪をなでられたイザークは小さく声を上げると寝返りを打って背を向けた。
「・・・ディァ・・・・・・」
 思わず漏れた寝言にディアッカの表情が崩れ落ちる。
 夢の中でまで甘えてくれるなんて。
 一体どんな夢を見ているのだろう。
 夢の中でイザークは幸せなのだろうか。
 この寝顔をずっと見守って行きたい、とディアッカは心底思う。
 穏やかな寝顔。幸せそうな横顔。
 軍人として生きる自分たちには数少ない甘い緩やかな時間の流れるとき。
 一度軍服を身につけて宇宙に出てしまえば、睡眠中といえども気は抜けなくて、
 眠りだってずっと浅い。甘い夢を見ていることなど到底無理な日々が続くのだ。
「・・・イザーク、お前が好きだよ」
 寝顔にそっとつぶやいてみる。
 好きだからずっと一緒にいよう。
 好きだから幸せになろう。
 いつかきっと、毎日こんな寝顔を見られる日がくるそのときまで。
 儚く見えるその寝顔を見守りながら。 
 ずっと隣に居られるように。
 そんなことを願いながら。
 寝顔のイザークにディアッカはそっと甘いキスを落とした。





2005/4/19





甘い話が書きたかったんですが、いまいちかなぁと。
ディアッカが一人でつぶやいてる話は書きやすいです。
寝言で甘えてるイザークがどんな夢をみたのかはご想像にお任せしますv