神様のしっぽ
「イザークって神様の尻尾みたいだな」
 シャワーを浴びてすぐにぴっちりとしたアンダーを身につける律儀な上官に、ディアッカはつぶやいた。
「神様の尻尾? 何だそれは」
 コーディネーターと宗教は基本的に相容れないし、イザークもディアッカも特に信仰している教えがあるわけではない。
「神様の尻尾って掴まえられそうで掴まえられないんだって」
「どうして神様に尻尾なんてあるって話になるんだ?」
 神様なんだから何でもありな感じもするが、尻尾とは妙な取り合わせだ。
「あ、神様だっ、て気がついたときには目の前を通り過ぎてるんだって。それで慌ててその尻尾を掴まえようとしても、
結局寸前でつかめないっていう話。要は、願い事とかそーいうのはそう簡単にかなえられないって例えだろ」
「くだらないな」
 ディアッカの目の前で、イザークは軍服を手に取る。
「イザークの基準にかけられるとたいていのものがくだらない、で終わっちまうけどな」
 そう笑いながら立ち上がってその手から軍服を奪い取る。
「おい、ディアッカ・・・」
 集合時間まであと40分ほどあるが、イザークとしてはその20分以上前には部屋を出ておきたかった。
「言ったろ、神様の尻尾みたいだ、って」
「俺は掴まえられないって言いたいのか?」
 不満そうに睨みつける。その青い眼は不本意が半分、苛立ちが半分。
「じゃぁ簡単にオレに掴まえられてくれるわけ?」
 そんなことする気は微塵もない、とはお互いが既知のこと。
「それは、ないな」
 ふん、と鼻で笑うのは、いつまでも変わらないイザークのくせ。
「だから、オレは抱きしめたいときに抱きしめるよ・・・」
 言いながら力一杯両腕で抱きしめる。イザークの身につけたアンダー一枚だけがお互いの体温を隔てている。
「人のことを消え物みたいに言うな」
 抱きしめられたままその心地を味わって。でも続く言葉は穏やかじゃないのはイザークだからこそ。
「それに俺は掴まえられるんじゃなく、掴まえるほうが趣味だからな」
 言ってディアッカの唇を強引に塞ぐ。ディアッカもそれに深く自分を重ねた。
 さっきまでの密事を繰り返すように、一時、激しく口付け合う。
「ぅん・・・」
 漏れたイザークの声にディアッカが堪らずその二の腕を掴もうとした瞬間に、
 ぐい、とディアッカの襟足の髪が後ろから引っ張られた。
「痛ぇっ」
 否応なしに引き剥がされるディアッカの顔。それを見てイザークは楽しそうに笑う。
「言ったろう、俺は掴まえるほうが趣味だってな」
「なんだよ、それぇ。人の髪思い切り引っ張りやがって・・・」
 そんなディアッカを横目にイザークは軍服の袖に腕を通す。
「尻尾というのはお前の髪の毛のほうが合ってるぞ」
 言われたディアッカは自分の襟足を掴みながらつぶやく。
「確かに、最近長いからな・・・」
「とっととシャワー浴びろ、時間だぞ」
 ディアッカの言葉などまるで聞かないイザークはマイペースで着替えている。
「ねぇ、イザークって掴まえるの好きなの? オレの髪長いほうがいい?」
 突然言い出したディアッカにイザークの表情はまるきり呆れ顔だ。
「くだらないこと言ってないでとっととしろ」
 ベッドから蹴り落としてやるとイザークはゆるりと笑う。
「まぁ、お前の髪は好きだがな」
 それを聞いて機嫌をよくしたディアッカはシャワールームへと消えていく。
「掴まえられない、か」
 それはどっちのことだろうか、イザークはそんなことを思った自分に気がついて、そっと一人で笑った。

 

2005/4/23




襟足の長いディアッカなDVDジャケットを見ながら書きました(笑)
イザークは捉えにくい奴だろうな、と思いつつ、しっぽをいつか結んでやろう、とか。
結局ディアッカがバカ丸出しになりました(苦笑)