「イザーク? 無事?」
大気圏に突っ込む寸前でデュエルの機体をバスターで掴まえたから、
なんとか離れ離れにならずには済んだけど、落下中はイザークにまで気を回してる余裕はなかった。
「おい、イザーク?」
「・・・何度も呼ぶな、聞こえている」
その様子はどこか苦しげだった。オレはバスターを寄せると、その手のひらに乗ってデュエルのコクピットを外から叩く。
「イザーク? どしたんだよ?」
それでも返事がない。ますます心配になったオレは外側からハッチを開いた。
するとそこにはヘルメットを外してぐったりとしたイザークがいた。
「イザーク!!」
慌てて飛び込むとイザークはけだるそうに顔をあげた。
「やかましい。静かにしろ」
その額に触れるとわずかに熱があるのがわかる。
「大丈夫か? 傷は?」
「知るか。それよりお前の声が響くと言ってるんだ」
その不機嫌ぶりには、ストライクを討てなかった悔しさとミスで地球に落ちた自分への苛立ちも含まれていて、イザークの取り扱いレベルとしては、危険レベルがコンディションレッドなのがわかった。
「わかったよ。とりあえず、地上に降りよう。横になったほうが楽になれるし。
オレがエマージェンシー信号セットしておくから」
いうとイザークは無言のままシートから起き上がる。
初めて降りる地球の空気は、どこかねっとりとしているように思える。滅入った気分のせいだろうか。
だが、イザークはそんなことには構わずに地面の上に足を伸ばして座っていた。
「イザーク、サバイバルキットは?」
何も手にしていないイザークに聞くと、ぷいと顔を背けた。
「ない」
「はぁ?なんでないんだよ?こんなのコクピットに入れっぱなしのもんだろ」
オレの言い方にムッとしてイザークは怒鳴る。
「整備したときに邪魔だったからどかしてやってたらそのまま積むの忘れたんだ!」
ああ、今度から部屋の片付けだけじゃなく、コクピットの中のチェックまでオレがしなくちゃいけないのかよ、と思いつつ苦笑しながら自分のキットを開けた。
「とりあえず、その包帯は替えたほうがいいだろ? あと止血剤と一応鎮痛剤も飲む?」
言いながら中から必要なものを取り出すとイザークに差し出す。
「いらん」
すっかりいじけた様子にオレはため息をつく。
「いらん、じゃないだろ? 迎えが来たときに無様な格好見せるわけにはいかないだろ。
オレらはクルーゼ隊のパイロットなんだぜ? 最低限のコンディション管理くらいしなくてどうするんだよ?」
その言葉にイザークはしぶしぶとそれらを受け取った。オレはイザークの顔に巻かれた包帯を取り、新しいものと取りかえる。
「傷、痛むか?」
「平気だ」
その様子は明らかに強がりだった。傷のせいで発熱してるのはオレにだってわかった。
「薬飲んだら休んでろよ。迎えが来るまで時間あるだろうし。その間オレがコクピットで見張りしてるから」
するとイザークは怒ったような口調で言った。
「お前もいろ」
「いろって言ったって・・・。ブランケット一枚しかないし。熱だしてるんだから、イザークが寝たほうがいいだろ。だから・・・」
オレの言葉をさえぎってイザークがつぶやいた。
「隣にいてくれ・・・」
その声はいつもよりずっと力ない。熱のせいかそれとも初めておりた地球の重力に気持ちまで重くなったのか。
「じゃぁ、二人でくるまるか」
イザークは小さく頷く。それを確かめるとオレは隣に座ってイザークの体を包むようにして広げたブランケットに一緒に収まった。
あたりは徐々に夕闇に包まれてくる。
「このまま夜明かしかな」
オレが言うと空を見上げながらイザークはいった。
「初めての地球が野宿とはな」
その空は見慣れた人工の空とは違って、何処までも深く遠く見える。
「でも、イザークと一緒ならそれもいいかもな」
「言ってろ」
ブランケットの下、短く言うイザークの肩を抱き寄せる。
「少し寝たら?」
オレの言葉にイザークは寄りかかってくる。
「人が来る前に起こせよ」
「わかってるって」
その額に口付けるとイザークはゆっくりと瞼を閉じた・・・・・・。
2005/4/17
地球降下の話はいつか書きたいなと思っていたので。
本当はもっと長かったんですが、拍手用に大幅カット。
二人の砂漠デートな話、はもっとゆっくり書いてみたいです。
本当はもっと長かったんですが、拍手用に大幅カット。
二人の砂漠デートな話、はもっとゆっくり書いてみたいです。