神 様
「イザークは一人だよ」
アスランはアークエンジェルで再会したディアッカにそう告げた。
「ふぅん、それで?」
そっけない反応にそれ以上言う言葉がなくてアスランは戸惑う。
「いや、別にそれだけだ」
MIA扱いされているであろう自分はともかく、アスランは一度は戻っていたのだからどちらかといえば、イザークを一人残してきたのはアスランのほうなのだ。
「俺も特務隊に転属になったから、最後に会ったのはカーペンタリアなんだけど」
イザークを差し置いてアスランが特務隊とは。きっと同じ部屋にいたならば癇癪で部屋は荒れ果てて大変なことになっていただろうとディアッカはそんなことを思う。
大きな作戦が予定されているらしい、というのはアスランから聞いたが、イザークがあのままクルーゼ隊の一員として参加するのか、それとも宇宙にいるのか。それももうわからないことだった。
離れるつもりなどなかったのだ。
ただ、死にたくないと、それだけを思って。
生き残るために、捕虜となるためにバスターのハッチを開けた。
それがイザークを一人残すことになるだとか、プラントに帰れないことになるだとか、そんなことを考えたわけじゃない。
生きていれば帰ることが出来ると信じていた。
いくら戦争をしているからといって、捕虜の取扱の条約を守らないほど連合が軍隊として破綻しているとは思わなかったし、そもそも自分がアークエンジェルを助けるだなんて思ってもいなかった。
すべてが自分の意思だけじゃ動かない。
いや、違う。
全てを自分で選び取ったから、オレは今ここにいるんだ。
そして、イザークはイザークの意思で選び取った道を今もまっすぐに歩いているのだろうと思う。
神様。
いるのかさえわからない存在だけど。
人を超えたコーディネーターが縋れるのは人ならぬ物しかないのかもしれないから。
ならば、神がいるこの母なる地球の上で今こそ祈ろう。
神様。
どうか彼を、イザークを守ってください。
一人で泣かないように、信じた道を進んで行けるように、彼が不安にならないように。
勝手な言い種かもしれないけど、今オレがイザークのためにできるのはそれくらいだから。
オーブの守り神だというハウメアは、宇宙生まれのオレの願いでも聞き入れてくれるのだろうか。
カガリという少女がくれた「守り石」はいつかイザークに渡そうと思ってずっとポケットにいれてある。
いつかイザークに渡そう、もう一度この手に抱きしめるときがきたら。
だから、神様、そのときまでどうかイザークを。
「はい、地球みやげ」
眼前に突き出されたピンク色の石にイザークの眉はけげんに顰められる。
「なんだこれは」
「神様」
にっこりと笑うディアッカにイザークはますますわけがわからないと顔を曇らせた。
「神様だと〜」
民俗学を専攻しているイザークにしてみればディアッカの言い分は全く意味がわからない。それを言うならお守りだろう。
「オーブでもらった守り石なんだけど、イザークのことお願いしたんだよ」
だから、とディアッカはイザークの首にそれをかける。
「俺は願掛けなどいらないぞ、余計なことをするな」
引っかかった髪の毛を梳かしながら、ディアッカはそれでも笑っている。久しぶりに二人きりで会う時間ができた、イザークの部屋でのことだ。
「イザーク、昔言ってたよな。お願いが叶ったらお礼にいくんだって」
「あぁ」
「だから、いつか二人でオーブに行こうぜ、オーブの神様にお礼しなくちゃいけないから」
お前が勝手に行け、と言いかけたイザークはけれど、胸元に鈍く光る天然石に目を落とした。自分が生き残ったのは神様なんかのせいじゃないと思うが、ディアッカがこうして戻ってきたことは神様のおかげかもしれない。自分も確かに信じてもいない神に祈ったりしていたのだから。
「ガイドはお前がするんだろうな」
オーブに知り合いもできたのだから当然だろうとイザークは目線で言っている。
「もちろん」
了解の返事が得られてディアッカは嬉しそうに頷いた。
神様。
その存在がいてもいなくても。
再びイザークと出会えたことに、心から感謝を。
アスランはアークエンジェルで再会したディアッカにそう告げた。
「ふぅん、それで?」
そっけない反応にそれ以上言う言葉がなくてアスランは戸惑う。
「いや、別にそれだけだ」
MIA扱いされているであろう自分はともかく、アスランは一度は戻っていたのだからどちらかといえば、イザークを一人残してきたのはアスランのほうなのだ。
「俺も特務隊に転属になったから、最後に会ったのはカーペンタリアなんだけど」
イザークを差し置いてアスランが特務隊とは。きっと同じ部屋にいたならば癇癪で部屋は荒れ果てて大変なことになっていただろうとディアッカはそんなことを思う。
大きな作戦が予定されているらしい、というのはアスランから聞いたが、イザークがあのままクルーゼ隊の一員として参加するのか、それとも宇宙にいるのか。それももうわからないことだった。
離れるつもりなどなかったのだ。
ただ、死にたくないと、それだけを思って。
生き残るために、捕虜となるためにバスターのハッチを開けた。
それがイザークを一人残すことになるだとか、プラントに帰れないことになるだとか、そんなことを考えたわけじゃない。
生きていれば帰ることが出来ると信じていた。
いくら戦争をしているからといって、捕虜の取扱の条約を守らないほど連合が軍隊として破綻しているとは思わなかったし、そもそも自分がアークエンジェルを助けるだなんて思ってもいなかった。
すべてが自分の意思だけじゃ動かない。
いや、違う。
全てを自分で選び取ったから、オレは今ここにいるんだ。
そして、イザークはイザークの意思で選び取った道を今もまっすぐに歩いているのだろうと思う。
神様。
いるのかさえわからない存在だけど。
人を超えたコーディネーターが縋れるのは人ならぬ物しかないのかもしれないから。
ならば、神がいるこの母なる地球の上で今こそ祈ろう。
神様。
どうか彼を、イザークを守ってください。
一人で泣かないように、信じた道を進んで行けるように、彼が不安にならないように。
勝手な言い種かもしれないけど、今オレがイザークのためにできるのはそれくらいだから。
オーブの守り神だというハウメアは、宇宙生まれのオレの願いでも聞き入れてくれるのだろうか。
カガリという少女がくれた「守り石」はいつかイザークに渡そうと思ってずっとポケットにいれてある。
いつかイザークに渡そう、もう一度この手に抱きしめるときがきたら。
だから、神様、そのときまでどうかイザークを。
「はい、地球みやげ」
眼前に突き出されたピンク色の石にイザークの眉はけげんに顰められる。
「なんだこれは」
「神様」
にっこりと笑うディアッカにイザークはますますわけがわからないと顔を曇らせた。
「神様だと〜」
民俗学を専攻しているイザークにしてみればディアッカの言い分は全く意味がわからない。それを言うならお守りだろう。
「オーブでもらった守り石なんだけど、イザークのことお願いしたんだよ」
だから、とディアッカはイザークの首にそれをかける。
「俺は願掛けなどいらないぞ、余計なことをするな」
引っかかった髪の毛を梳かしながら、ディアッカはそれでも笑っている。久しぶりに二人きりで会う時間ができた、イザークの部屋でのことだ。
「イザーク、昔言ってたよな。お願いが叶ったらお礼にいくんだって」
「あぁ」
「だから、いつか二人でオーブに行こうぜ、オーブの神様にお礼しなくちゃいけないから」
お前が勝手に行け、と言いかけたイザークはけれど、胸元に鈍く光る天然石に目を落とした。自分が生き残ったのは神様なんかのせいじゃないと思うが、ディアッカがこうして戻ってきたことは神様のおかげかもしれない。自分も確かに信じてもいない神に祈ったりしていたのだから。
「ガイドはお前がするんだろうな」
オーブに知り合いもできたのだから当然だろうとイザークは目線で言っている。
「もちろん」
了解の返事が得られてディアッカは嬉しそうに頷いた。
神様。
その存在がいてもいなくても。
再びイザークと出会えたことに、心から感謝を。