■■■



「俺が確かめるってそんなこと・・・!」
 声を荒げるイザークにミゲルは意地悪く笑う。
「協力するとは言ったけど、俺が確かめるとは言ってないぜ。だいいちお前ら二人の問題なんだから自分で確かめるのが筋だろ」
 相変わらずうまく言い含められている気がするイザークは仏頂面で無言になってそれをみたミゲルは楽しそうにしている。

 四度目のディアッカの外出許可を知って後を追うようにメンバーの全員が外出許可を取った。イザークは気乗りしなかったのだが、ミゲルが半ば強引に全員を連れ出したのだ。根っからのお祭り好きはこんな好機は見逃せないとばかりに張り切っている。
 そして数十メートル先のディアッカはモデル並みの服装で高級ホテルのラウンジで人を待っていたがやがてそこにやってきたのは、一人の少女だった。いつだか画像でみたのと同じ人物のようだ。
 あれが誰でどういう関係なのか確かめるしかないというのが今の話題で、ミゲルはそれをイザーク本人にやれと言ったのだ。
「かわいい子じゃん」
 ラスティが声をあげてニコルが嗜める。
「有名な家のお嬢さんなんでしょうか」
「お見合いするくらいなんだからきっとそうですよね、アスラン知りませんか」
 家としての知名度はイザークを除けばアスランが一番でニコルは訊ねたのだが問われた本人は情けなく首を振るだけだった。
「いや・・・俺はあまりそういうのは詳しくなくて・・・」
「でもディアッカの家が見合いするような相手は限られるんじゃないですか、しかもあの年齢のお嬢さんがいるなんて」
 今度のニコルの言葉はイザークに向けられたものだが生憎と空振りだった。
「うちにもその手の話は来るが、全て断ってるから分からん」
 ジュールの家と結びつきを得たい輩は後を絶たないがイザークに当分結婚するつもりがない以上、見合いは全て断っている。きっと相手のチェックでもしていたならイザークの相手として候補になっていたかもしれない。
「それにしても」
 そこで一旦言葉を切ったミゲルに全員の視線が集まる。
「断るって言ってたのにデートしてるってことは、その気になっちゃったってことかね」「かわいいもんなぁ」 
 すっかり気に入ったらしいラスティはかわいいを連発していてイザークは邪魔臭そうににらみつけた。
「ディアッカに限ってそんなことはないんじゃないですか」
 ニコルは言うがイザークの表情は晴れない。
「それで作戦は考えているのか」
 いつまでも物陰で五人で隠れてるのはたまらないとばかりにアスランがミゲルを伺った。
「そんなの考えてるわけないじゃん」
「なんだとっ」
 無責任な言葉にイザークは立ち上がりそうになってニコルとラスティが慌てて服の裾を掴む。
「ちょっ、やばいって」
 いくら距離を置いているとはいえディアッカだってアカデミーに籍をおく人間だ。街中とはいえ怪しい気配があれば感づかれてしまう。ましてや聞きなれたイザークの声なんてどんな遠くからでも気付きそうなのだからここでイザークが騒ぐのは大問題だ。
 無理やり地面へと引っ張られてから不機嫌そのものの顔でイザークは顔を背ける。
「ならどうするつもりなんだ、ミゲルに考えがあるんだと思ってたのに」
 アスランの言うことは図らずもイザークの言いたかったことで、アスランなんかに言われてしまったことでますますその機嫌は悪くなっていく。それにはらはらとしながらニコルはミゲルを向いた。
「そんなこと言ってないで何とかしてくださいよ・・・」
「そう言われてもなぁ、やたらなことしたらディアッカの親父さんにもマズイ影響ありそうだしなぁ」
 困り果てるミゲルにますますイザークの顔は厳しくなっていき、色恋沙汰に無縁なアスランまでもがその頭を悩ませ始める。
「まどろっこしいことなんてしないでいっそ直接対決ってのはー?」
 いきなりのんきな声をあげたのはラスティだった。
「直接・・・って」
 ニコルが繰り返して頼るようにミゲルを仰ぎ見る。こういう場数を踏んでいるのはこの中じゃ間違いなくミゲル以外にいなかった。だけど、そういうのを普通は修羅場っていうんじゃないのだろうか、と視線で確かめるとニヤニヤと人の悪い笑みが最年長の先輩の顔に浮かぶ。
「いいねぇ、それ!イザークだって単刀直入のほうが性分に合ってるだろうし、面白そうだもんな、男対女の修羅場なんて」
 クックックッと笑い出す横顔にアスランは何も言えず、ニコルは困惑した。
「で、イザークはどう思う?」
「どうって・・・」
 いきなりとんでもないことを言われてその場で判断しろなんて無理な話だ。しかもいくらイザークが回りくどいことが苦手だとはいっても、ディアッカのお見合いの相手かもしれない少女に面と向かって何を言えというんだろう。ディアッカ本人にさえ確かめることもできなかったのに、「お前は何者だ」なんて言うわけにもいかない。
「ディアッカに確かめればいいんだよ」
 ラスティはそんな風に言う。まるで答えなんて最初から分ってるんだから、と先をせかすような言い方にニコルは苦笑した。
「それができたら僕たちこんなところまで来てませんよ」
 そもそも、イザークがディアッカに確かめることができなかったから、探偵気取りで後を追ってきているのだ。ディアッカに聞くならばわざわざアカデミーの外にでることも、デートの最中に確かめることも必要ない。
「だーかーらー。お互いにもう後がないと思えば聞くしかないし、ディアッカだって話すしかないでしょ、相手の前じゃ嘘なんてつけないし」
 要するにイザークに覚悟を決めろというわけだ。それに気がついたイザークはじろりとラスティをにらみつけた。
「おぉ怖いっ」
 ケタケタと笑いながらアスランの後ろに隠れたラスティにニコルがまったくもう、とため息をつく。
「というわけだ、イザーク何か反論は?」
 いきなり仕切り顔で聞かれて不満をぶつける事もできず、ミゲルのすぐ横の地面を蹴りつける。それを「ったく」と避けながら銀色のオカッパをよしよし、とミゲルは撫でた。
「覚悟は決まったわけね。まぁ他人が聞くより一番いい方法だよ、実際ね」
「言っておくが、修羅場なんかじゃないからな!俺はディアッカに相手の素性を聞くだけだ」
 めいっぱい強がって見せるお姫さんにミゲルは苦笑を禁じえない。
「素性ねぇ・・・『その女な何なんだ』くらい言ってほしいけどね」
 どこまでもからかい甲斐があるとばかりに笑うミゲルにますますイザークは機嫌を損ねてニコルが必死になってなだめにかかった。
「あ、車を出すぞ」
 アスランの言葉に全員が顔を上げれば待ち合わせのホテルの車寄せにレンタルエレカが滑り込んできてディアッカは慣れた様子で少女を助手席に座らせると自らも運転席に乗り込んだ。
「やっぱり慣れてるなぁ、ディアッカって」
 普段は目にすることのないディアッカのプライベートの姿にラスティは素直な感想をもらす。
「背が高いから絵になりますね」
 自分の身長が低いことを気にしているニコルはそんなことを言う。
「行き先はどこだろう」
 アスランが気付いてミゲルは慌てて指令を出した。
「追うぞ、ラスティ、車!」






-8-


⇒NEXT

BACK←