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「あっれイザーク!珍しいじゃん。お茶?」
 イザークが暇さえあれば訓練をしていると知っていてラスティは茶化すように笑う。消灯前の自由時間にみんなはラウンジにいるのが普通なのだがそこにイザークがくるのは珍しい。
「俺がここにいたら悪いか」
 自販機からカップを取り出して口にしながらイザークは睨みつける。
「ちげーよ。ディアッカが外出してるから寂しいんだろ、214号のお姫さんはさぁ」
 ソファの影から身体を起こしてミゲルがケラケラと笑い飛ばす。
 そこにミゲルがいると知っていたら近寄らなかったものを、と臍をかみながらイザークは仏頂面を隠さない。 いつもディアッカが傍にいて金魚の糞呼ばわりしている先輩はニヤニヤと楽しそうに笑う。
「お守役がいないと暇なのか」
 滅多なことじゃラウンジなんかにやってこないイザークにそんなことを言う。ディアッカは先週に引き続いて外出許可を取っていて、朝早くから出かけていった。イザークにべったりなボディガードはお姫さんを一人にしておくなんて珍しいことだ。
「そんなこと貴様に関係ないだろうが」
 こんな場所にいるのは時間の無駄だとばかりに背を向けたイザークにミゲルはついつい楽しくなって口止めされていた話を漏らしてしまう。
「そういえば、ディアッカはお見合いしたんだっけ?ひょっとしてその相手とデートだとか?」
「ミゲル!!」
 ニコルが慌てたように言うが金髪の先輩は動じない。それよりもその言葉にピクリ、と銀髪の背中が一瞬震え、そしてイザークは振り返った。
「なんだと」
「先週、実家に戻っただろ」
 見事に引きつった顔のイザークにミゲルは思惑が外れなかったことを確信する。
「あれは父親の命令でどっかのご令嬢と見合いしたって話だぜ」
 思い切り初耳だという顔に楽しそうにしながらミゲルはミックスジュースを口にした。
「もしかして知らなかったのかよ?」
 本当はディアッカがイザークに話をできずにいることをミゲルは知っていた。そしてそのまま見合いをしたことも。
「そんな話・・・聞いてない」
 あああ、泣きそうな顔しちゃって。
 心底驚いた顔のイザークにミゲルは目の前のソファに座るように促す。一瞬戸惑ってからけれども事実を知りたい誘惑には勝てず、イザークはそこへ腰を下ろした。


 ことの発端は週末に外出許可をとったディアッカにその理由をニコルが尋ねたのがきっかけだった。

 基本的に寮で生活している間は家に帰ることは出来ない。だが事前に申請を出せば週末の授業のない日であれば許可を得て外出することが出来るので、休日前になると事務局に申請を出す者の姿が見られることがある。ニコルは次の休暇に開く予定のミニリサイタルの打ち合わせがあって外出許可を申請に窓口へやってきたのだがそこで珍しい姿を見つけた。
「ディアッカ、珍しいですね、外出ですか?」
「なんだニコルか」
 外出を申請するというのにディアッカは別段楽しそうでもない。むしろどちらかというと仕方なく仕事を片付けるといった感じさえする。
「何の用事ですか、僕はリサイタルの打ち合わせなんですよ」
 緊張続きのアカデミーの生活の中で好きなピアノに関わる予定があるというのでニコルは楽しそうに言った。
「用事っつーか、命令っつーか」
「命令?」
 さも嫌そうに言うディアッカにニコルは首をかしげた。ディアッカがこんなにまで感情を表に出すのも珍しい。いつも感情の起伏の激しいイザークと共にいるからフォロー役に回ってばかりで自分の感情を表に出すことはなく飄々としている感じなのだから。
「親父が帰れって連絡してきたんだよ、絶対に来いってさ」
 言葉を濁すディアッカにニコルは不思議そうに顔を傾げたが、ディアッカはそれに気づかない顔で必要な手続きに戻ってしまった。





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