ミネルバのデッキで一人、外を眺めていたアスランの隣に、当然のように立つとハイネはいきなり切り出した。
「いや、そんなことは・・・」
慌てたように訂正するアスランは、先日のホテルでミーアに甘えられた様子を思い出して赤面する。
「ラクス嬢はずいぶんと積極的なようだが、お前はそうでもないようだな・・・というかどっちかというとそういうのは苦手そうな顔してるな」
軽く笑いながら言われて、アスランは返答に困ったような顔をする。
「それは、いや、その・・・」
そんなアスランに構わずにハイネは楽しそうに続ける。
「お前さ、軍なんかにいて貞操は無事なの?」
「はぁっ?!」
突拍子もないことを言い出されてアスランの声は上ずった。
そのうぶな様子にハイネは思い切り噴きだす。
「あっはっはっ! その様子じゃ無事みたいだな。そんなきれいな顔してたら狙う奴だっているだろうに。さすがに赤着てたら手を出す奴もそうはいないか」
「そういう問題じゃ・・・」
慌てて落ち着きを取り戻すアスランを面白いペットを眺めるようにハイネは見ている。
「そういう問題だよ。実際、俺等くらいになっちまうと、そんな場面もすくないけどな。下のほうの奴らなんて野郎ばっかの部隊じゃ力のない奴が餌食になるもんだしな」
その内容にアスランは黙り込んだ。ハイネは何でそんなことを言い出すのだろうと考える。
「何考えてる?」
「え、いや」
ハイネはくるりときびすを返すと壁に寄りかかってアスランを見返した。
「当ててやろうか? なんでそんなこと言い出したんだ、とか考えてるんだろ?」
図星を指されたアスランはわかりやすいほど表情にだしてハイネを見つめた。
「やっぱりな。さすがエリート。考えることには無駄がない」
「そんなことは・・・」
慌てて否定するアスランだが、ハイネにそれは意味のないことだった。
「別に、たいした意味はないぜ、っていうか思いついただけだからな。でもそんな反応されちゃうと違う興味が沸いちゃうよなー、実際」
言って、くっくっと口元を押さえて笑う。
今まで周りにいなかったタイプだけに、アスランはハイネに対してどう接していいのかわからなかった。もともと人付き合いは苦手なほうだし、ハイネはずかずかと入り込んでくるタイプで、油断すると思わぬ角度から切り込まれてしまう。どうしたらいいのかと思っていると、ふいにハイネが近寄った。
「あんまり素直な反応されるとさ、からかいたくなるってお前、わかってる?」
そういうハイネの顔を見ようと視線を上げたアスランの顎をぐいと掴むと、グリーンの瞳がイタズラっぽく笑って軽い音を立てて唇を奪っていった。
アスランは一瞬、呆然として次の瞬間には警戒してハイネから遠ざかる。
「ぷっ、はははっ。お前、キスくらいで動揺しすぎだぜ。17にもなってキスの一つや二つ、誰にくれてやってもたいした問題じゃないだろう」
余裕たっぷりの顔で言われてアスランはますますハイネを警戒する。
「それとも、ラクス・クラインにだけっていうわけ? どう考えたって政略結婚の臭いプンプンなガキ同士の婚約だったのに、結構純愛なんだ」
その言葉にアスランの表情は複雑になる。
子供同士の婚約なのは本当だったし、今、本物のラクスはキラに想いを寄せてともに暮らしているのだ。
「そういうわけでは・・・」
ようやくつむいだ言葉にハイネはさっきまでとは違うまじめな表情を浮かべる。
「お前みたいな純粋な奴、軍にいるのには勿体ないよな。いつ死ぬかわかんないのに。けど、不器用そうだから、政治家には向かないかもな。駆け引きなんてできないだろうから。・・・結局、そういう人間が戦争ではまっさきに死ぬのかもしれないな」
言うとまた姿勢を戻して、ハイネは窓の外を眺める。
ハイネの言葉にアスランはニコルを思い出した。純粋な人間ほど早く死んでいく・・・。誰より純粋で年下の少年。彼の夢はかなえられないまま、その死すら無駄にするかのように再び戦火が起こり、自分はまたその中にいる・・・。
「もうちょっとさ、器用になれよ」
ふいにハイネは言った。
「器用にって・・・」
「たとえばオレがお前を襲おうとしたら、軽くかわせるくらいにはな」
その内容にぎょっとしながらも、ハイネの言わんとしてることを察したアスランは黙って頷いた。
「そうですね。ハイネを襲うマネくらいは出来るようにしておきます」
想わぬ逆襲に楽しそうにオレンジの髪の青年は笑う。
「へえ、結構言うねぇ。じゃ、その日を楽しみにしてますか。でもオレもそのときは容赦しないけどな」
「覚悟してます」
言って二人して笑いあう。
アスランは自分よりも年上の青年の存在に少しだけ心が安らぐ気がしていた。
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2005/5/6
日記に掲載したSS。
ハイアスはハイネのキャラが書きやすい。
ハイアスはハイネのキャラが書きやすい。