For my love



「ああ、ザフトのお前、ちょっとこいよ」
 AAの廊下を歩いていたディアッカは、ムウというパイロットに呼び止められた。
 こいつがあのMA乗りだったと思うと意外だ、というのがディアッカの印象だ。何度もやりあった経験からすると、冷静で的確な判断が出来る手ごわい相手だと思ったのに、実際のこいつは軽いスケベなおっさん、なのだ。
「ザフトの・・・って何だよ。いちおー名前はあるんですけどね」
 立ち止まり、その顔を見上げながら言う。
「ああ、すまん。・・・なんだっけ? 悪いけど、名前呼ぶの得意じゃないんだよな」
 その言葉に確かに、とディアッカは思う。キラとかいうフリーダムのパイロットのことだって『ぼうず』呼ばわりしていたし。ラクス・クラインはピンクのお姫さんだったからな。
「で、何だよ。人のこと呼び止めておいて」
 用件を促すとムウは近くの居室に入っていく。
「入れって」
「は?」
「ここ、オレの部屋なんだけどな。片付けするの面倒臭がってたらけっこう物が溜まっちゃってね」
 確かにキレイとはいえない部屋だった。一人部屋だから他人に気兼ねする必要がないということはイコール散らかし放題ということなのだ。所詮男なんてその程度だ。
 ディアッカを招き入れておいて、ムウはあちこちに散らばっている雑誌を数冊まとめると無造作に差し出した。
「やるよ、お前さんに」
 視線を落とすと、それは水着姿の女性が映るグラビア雑誌だった。
「はぁ? 何だよいきなり」
 ディアッカはそれをつき返すでもなく受け取りながら聞き返す。
「ちょうど良く通りかかったから」
「なんでオレなわけ?」
 他にも喜んでもらうようなクルーなんていくらでもいるだろうに。
「誰かにやろうと思ったけど、キラは問題外だし、サイの奴はお堅そうだしな。他のクルーだと自分にもくれとか言われてキリがなさそうだから、面倒くさいしなー」
 ははは、と笑いながら言う青年は、ディアッカを呼び止めることをあまり深く考えたわけではないらしい。
「まさに渡りに舟ってわけ?」
 あきれながら言う言葉にムウは大きく頷いた。
「おお、よく知ってんな、そんな言葉。そうそう、まさにそれ」
 イスに座りながらそういうムウはまるきりキレ者のパイロットとは思えない。
「お前さんだって、彼女とずいぶん離れて寂しいんだろ?」
 突然言われてディアッカはらしくもなく戸惑った。
「それとも、毎回後腐れなく相手をかえる、とか?」
 突っ込んだムウにディアッカは笑った。
「いや、・・・いるよ、ちゃんとした相手はね」
 そういったディアッカの顔にムウは興味をそそられたように聞いた。
「へぇ。美人? それともカワイ子ちゃん?」
 脳裏にイザークの姿を思い浮かべながら、ディアッカは答える。
「すっげー美人だぜ。性格は手に負えないくらいにわがままで負けず嫌いだけどな。肌は白いし、髪はサラサラのプラチナブロンドだし。目はサファイアブルーで、すっげーキレイだしな」
 聞いていたムウは意味深に笑うと楽しそうに言う。
「ふぅん。お前さんがそーいう趣味だとは思わなかったな」
 意味ありげな言い方にディアッカは不審そうに聞き返す。
「はぁ? 何だよ、そーいう趣味って」
 するとムウは間髪おかずに切り返す。
「男だろ、その相手って」
「・・・」
 言葉よりも表情でディアッカは認めていた。
「あ〜図星。やっぱりねー。ああオレ、別にそーいう偏見ないから安心しろよ。ただオレは女のほうが好きだけどね」
 ディアッカは敵わねーな、と肩をすくめてばれた理由を確かめる。
「何でわかったわけ? 男だって」
「そりゃ、年の功ってやつだろ。だいたい、男はストレートに女のこと褒めたりしないぜ。それに褒め言葉にスタイルを褒める言葉が一つもなかっただろ? 胸が大きいとかさ」
 内容はともかく、やはり冷静に分析しているあたりは優秀なパイロットらしいと思う。なるほど、このおっさんは自分と似ているのかもしれないな、とディアッカは苦笑する。
「なるほどね」
 頷くディアッカにムウは確かめる。
「同僚なのか、そいつ?」
 遠慮なしな質問にディアッカは気に留める様子もなく答えた。
「あぁ、まぁ・・・。パイロットしてっけど」
 あっけなく言うザフトのパイロットにムウは驚いた顔をした。
「・・・て、お前いいのか、こんなことしてて」
「こんなことって何だよ。大事な助っ人に向かってその言い種はねーんじゃねーの?」
「けどな」
 なおも言おうとするムウをディアッカは遮った。
「いーんだよ。・・・戦争終わらせたいってのは同じだから。たぶん解ってくれると思うし。・・・っていうか捕虜になりました、なんて戻ったら半殺しにされるかもしれねーしな」
 強がって笑うディアッカにムウは彼の本性を知った気がした。
 なりゆきで・・・とはいえ、戻ろうと思えばいつだって戻るきっかけはあったのに、それでもここに留まっているということは、やはりよほどの覚悟を決めているということなのだ。自軍を裏切ることと、恋人に敵対すること・・・この両方を抱えている少年も、またキラの友人と同じように複雑な立場なのに、飄々と振舞って見せている。アスランという少年よりも一つ年上だということだが、彼はそれ以上に大人のようだった。
「じゃぁ、まぁ、もらってくわ」 
 切り出したディアッカは雑誌を脇に抱えて部屋の出口に向かう。
「死ぬんじゃねーぞ、お前」
 そういうムウにディアッカは振り返りながら言う。
「そりゃ、あんたでしょ。美人の艦長さん、泣かすなよ」
「はっ、言うねー、おまえさん」
 ムウはまいったね、と笑いながら手のひらをディアッカに向かって振って見せた。


 イザーク・・・。
 廊下に出たディアッカは恋人のことを思い出した。
 お前をおいて一人にしてるのに・・・ごめんな。
 思ったより居心地いいんだよ、ここ。ナチュラルの戦艦なのに。お前は死んだってこっちに来たりはしないだろうけどさ。
 いつか・・・。
 戦争が終わったら一度くらいこいつらに会わせてやりたいな。
 あのおっさんにもオレの恋人だって言ってさ。女なんか目じゃないくらいに美人なお前のこと見たら驚くだろうな。
 お前に、会いたい・・・。
 口には出さずにディアッカは心の中でそうつぶやいた。






----------------------------------------------------
2005/6/19





ネオを見たら、ムウネタを思いついたので。
グラビアつながり・・・ってだけです(笑)