「何してるんだ?」
キッチンに入ってきたイザークがディアッカの手元を覗き込んだ。
「ケーキ作ってるんだよ。せっかくの誕生日だから」
作業台の上には丸いスポンジが二つに割られて、すぐ脇にはイチゴが山のようにボウルに入っていた。
「イチゴのショートケーキか?」
材料から推測するとそれ以外にはなさそうだ。
「そ。なんか懐かしくない? 子供の頃、誕生日といえばこれじゃなかった?」
そう言いながらディアッカは泡立て器でカシャカシャと何かをかき混ぜ始める。
「それは?」
「生クリーム。ショートケーキといえば甘ぁいクリームでしょ」
ディアッカは楽しそうに言うが、イザークは子供の頃ほど甘いものが好きではない。
「俺は甘くないほうがいい・・・」
「わかってるよ、ちゃんと甘さ控えめにするから」
言うとディアッカはカシカシと音を立てながら手際よくクリームをホイップしていく。
まったく器用な男だとイザークは思う。
ボウルの中、だいぶ泡立ってきたクリームを指に取るとディアッカはぺろりとそれをなめた。甘さの確認をしているらしく、合格、と言うとイザークを向いた。
「味見してみる?」
しかしその顔を見るとイザークは一瞬固まった。そして次の瞬間笑い出す。
「イザーク?」
突然吹き出した恋人に不思議そうな顔をしてディアッカはきょとんとしている。そこへイザークはエプロン姿の肩をつかむと、その顔を近づけた。
「!」
驚くディアッカをよそに、イザークはその頬を舌でペロっと舐めた。
「甘くないな、これならいい」
ディアッカにそう言うと、何もなかったようにイザークはキッチンを後にする。
「いっ、イザーク?」
不意打ちに慌てふためくディアッカは褐色の頬に残るクリームを慌てて手で拭う。すると廊下の先から声がした。
「ショートケーキより、俺はチョコケーキのほうが好きだな」
その意味するところを理解して、ディアッカは破顔する。
「まったく、オレはチョコかよ・・・」
でも好きだと言ったイザークに悪い気はしない。
「なら今日はイザークにチョコケーキもプレゼントしないとな」
そして笑うとケーキを飾り始める。
甘さ控えめのショートケーキ。
そんなものよりもずっと甘い二人だけの夜。
それを楽しみにするディアッカは鼻歌交じりにキッチンに立つ。
イザークの好きなものばかりが並ぶ食卓にはキャンドルが灯る。
大好きな恋人の誕生日。
幸せな夜は、まだこれから・・・。
2005/8/8
イザークの誕生日に思いついてブログに書いたSS。